蝉しぐれ

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父への尊敬の念、友情、幼い日のほのかな恋心、2時間の中で様々な物を描こうとしているわけですが、すべてが上辺だけをなぞったという印象です。
もっとも致命傷は、肝心の下級武士であるが故の苦悩がほとんど描かれていないこと。そのために、家老に対し刃を向ける瞬間の葛藤や、身分を超え「ふく」と呼ぶ瞬間にカタルシスを感じることが出来ませんでした。

うわべだけとは言え、丁寧に描こうとはしているのですが総てに対して踏み込みが甘く、頭で理解は出来ても、共感できるというレベルまでは達しません。視聴するときの注意力も散漫なテレビの2時間ドラマなら、こんな程度でもいいのかもしれないけど、お金を払って劇場で見る映画としては全く残念です。

しかし、なんでこんな出来になっちゃったんでしょうねぇ。「たそがれ清兵衛」「隠し剣鬼の爪」に次ぐ藤沢周平第3弾として、山田洋次監督の流れをくむ黒土三男監督を起用し、豪華キャストを配することで興行成績が見込めるという製作サイドの安易な判断なんでしょうか。
幼年期の少年たちのこなれていない演技を見ると、撮影時間が乏しかったんだろうかと思うし、また逆に、田村亮、緒方幹太、大地康雄が演じる役所なんかは不必要だと思えます。そんな物描いてるよりもっと描かなければいけない物があるのでは。
この世の最後に我が子を見つめる緒方拳の目は多くを語っているけれど、その父を見つめる主人公の切り返しさえ描写されません。緒方拳の演技に対して、心理を表現できるような演技ではなかったのかな？父への思いが表現できるまで撮影して欲しかったような。
まあ、これは想像にしか過ぎないし演出意図はわからないけど、脚本的にも演出的にも心理描写という点ではもっと丁寧さが欲しかったように思います。

映画の製作姿勢に非常に落胆させられた作品でした。
5段階評価は1。

”一生一緒にいてくれや（by三木道三）”と互いに誓い合った男女も、
結婚してしまえば夫と妻、子供を授かれば父親と母親という関係に。

誓い合った愛は不変なれど（と信じておこう）、否が応でも二人の関係は変わっていくもの。

一方で、親子の関係は一生変わらないように思います。
たとえ夫婦でも立ち入れない強い絆というものがあり、”母の日”や”父の日”の時期になると
お互いの親へのプレゼント選定で気を揉むわけです。少々憂鬱です。(・・。)ゞ

（”○○を贈ると、普段老けてみえるってことかしら？”と思われたらどうしよう？？）
（そもそも、私世代の親に贈るようなプレゼントはデパートには置いていない(・・。)ゞ）

本作品の前半のクライマックスはこの親子の強い絆にあります。
父親に気持ちを伝えきれなかった主人公の無念さ、”何も言えなかった”と。
なかなか感情を言葉に言い表すことは難しい。
だから、何も言えなかったのも良かったのではないか。
それだけの気持ちがあれば、きっと助左衛門にしっかり伝わっていたと信じたい。

前半のクライマックスと書きましたが、私にとっては本作品のクライマックスでした。
石田卓也さんが市川染五郎さんに、佐津川愛美さんが木村佳乃さんに成長するというキャスティングについていけなかった私には、
後半は別作品を観ているような気分になってしまいました。

映画館で観たのでＤＶＤとはまた違った印象なのかもしれません。
夏には夏の、冬には冬のシーンを撮ったらしく、四季を通じての風景がきれいでした。
ＮＨＫで放映されたテレビ版のほうがよいとの事も聞きましたが、テレビのほうの脚本も映画と同じ黒土監督さんなんですね。やはり２時間にまとめるというのが難しかったんでしょうか。

でも文四郎とおふくの若いころを演じている二人が拙い演技ながら初々しく、あの有名な蝉しぐれのなか大八車を牽くシーンは涙をさそいました。
そしてラストの籠の中の木村佳乃が名残惜しそうに文四郎を見遣る時に柵をつかんだ「手」が妙に印象的でした。

ふかわりょうと今田耕司 は映画の雰囲気を壊すことなく飄々としていて良かったと思いました

けっこう酷評されているんですね〜、、、、この作品、、、。
でも私は良かったなぁ〜！
映像の美しさは抜群だし、人の描き方も、脚本もすごくよかったんじゃないですかぁ〜？
ストイックな日本人の美しさを、見事に描いているように感じました。

こういう作品を観ると、日本人だからこそ解かる『日本』を感じることが出来る。そして、「ＮＯといえない日本人」と言う言葉や「沈黙は金」ということわざを思い出す。言葉にしない、感情をあらわにしないという美意識や一つの言葉に含まれるたくさんのニュアンス。そこから感じる、気高さ、潔さ、繊細さ。もどかしさ、融通の利かなさ、世間に縛られてしまう不条理さ。いい意味でも、悪い意味でも「俺は日本人だ！！」と改めて思ってしまう。

この作品は、そういう”日本らしさ”が繊細に叙情豊かに描かれている。
心に色んな想いを抱えているが、決して口には出さない芯の強さ。一つの言葉の重み。細やかなところに思いを込める日本美。そして、繊細に美しく変わりゆく四季。
派手ではないけれど、とても穏やかに心に染みる居心地の良さというものを全編通して感じた。

本当にちょっとしたところなのだけど、やはりハリウッドで撮られた作品とは全然違う。
もちろん、配役や演技力など微妙な部分はあるけれど、日本人が撮った日本の時代劇が本当に日本らしく観えたのはとても久しぶりな気がした。