ヴィタール

　塚本監督の作品だからてっきりホラー映画だと思い込んでいました。
タイトルの『ヴィタールとは』哲学者アンリ・ベルグソンがとなえた「エラン・ヴィタール」生命の根源的エネルギーから名づけらたれたようです。。
アンリ・ベルグソンはその著作『創造的進化』の中で、生命は常に進化を続ける。その純粋に持続する生命活動の底流に絶えず流れるエネルギーが「エラン・ヴィタール」だと解いたそうです。つまりが「エラン・ヴィタール」とは「生命の躍動」を意味しているのです。その言葉通り、この作品は事故によって記憶を無くした男が解剖で垣間見る生命の神秘と観念の世界で事故で失ったかつての彼女の躍動感溢れる生命力に触れる事で徐々に記憶と己が生きる意味を模索していくという物語です。
　
　「人間が生きるうえで「記憶」はどういった存在なのか？」「精神と肉体の関係」。「こころとは人間のどこに宿るのか？」などかなり哲学的な内容を模索する作品ですが、全く堅苦しい作品ではありません。浅野忠信演じる主人公・高木、モデル出身でこれが映画初出演となるKIKI演じる高木への想いを募らせる郁美、そして自ら献体を申し出、死してなお高木への強い愛情を表現する涼子。この三人の切なく純粋な愛の物語です。

　色の無く無味乾燥な現実、色彩豊かで生命の躍動溢れる使者との逢瀬、高木が選ぶ決断とそれに対して涼子が取った態度が感動を誘います。生きると言う事のせつなさと愛着を感じる事が出来た作品です。個人的にはかなり好きな作品ですが、それぞれの事象に対して明確な答えを用意している作品ではありませんので、スパッと気持ちよく全ての解決を望む方にはお勧めできません。

塚本作品にして第６１回ヴェネチア国際映画祭特別招待作品である本作品を僕は勝手にホラー作品と決めつけていた。当然の事ながら作品内容は全く違った。監督自身も最初はホラー作品として考えていたようだ。でも立派な純愛映画になっていた。ラスト火葬されるシーンはどこか切なくて胸が締め付けられるような感覚を味わうほどだった。

交通事故で記憶がなくなった男、博史（浅野忠信）、彼が一命を取り留め助かったものの生きているのか死んでいるのかわからないような生きる屍のようになっていた。だが、押入から医学書や解剖図版を見つけ出し、医学部を目指し始める。そして２年生となり解剖実習を行う事に。博史が解剖を担当するご遺体は若い女性のものだった。解剖していく内に博史は過去を思い出していく。事故を起こす前に付き合っていた涼子（柄本奈美）ことも。博史は現実の世界とは別の「あっちの世界」で涼子と再会する。そして博史は解剖にのめり込んでいく・・。

この作品で目を惹いたのは浅野、柄本、ｋｉｋｉの３人だ。浅野さんのセリフがなくても演じれる役者としての存在感、記憶を無くした男、博史の透明感と存在感という相反する演技を見事にこなしていたように思う。そして博史を取り巻く２人の女性、涼子と郁美（ｋｉｋｉ）を柄本さんとｋｉｋｉさんが演じている。どちらも映画初出演という事だったがそんな風には見えなかった。柄本さんのバレエダンサーならではの無駄のないスタイル、軽やかなダンス、そして難しい役所の演技、合格点以上なのではないだろうか。ｋｉｋｉさんに至ってはＣＭでよくお見かけするが、その印象的な顔立ちが見ている者に強烈な印象を残す。教諭を自殺に追い込んだという自責の念に捕らわれ「死」を意識している女、郁美をうまく演じていたように思う。キャスティングが素晴らしい。

僕は主人公博史が解剖しながら書き上げるスケッチを見て「まるでレオナルド・ダ・ヴィンチのメモのようだ」と感じたのだがどうやら博史のモデルはそのダ・ヴィンチらしい。また、自身を献体として愛する人に捧げた涼子のモデルは明治時代に日本で初めて献体を申し出た「美幾」という遊女らしい。逆境に生きた美幾が、病気から自らの死が近いのを悟り、愛した青年医師に自分を解剖してもらいたいと願ったのだそうだ。この話が結局この作品の根底にあり、柄本監督が映像化したものと考えられる。

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岩、木、水、砂と剥き出しとなった元素が、肉体と対峙する。彼岸のような海辺で繰り返される痛みが伝わってくるような女のダンシシーンも強烈に脳裏へ焼きついている。映像表現が苛烈である。

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ある、医学生が、交通事故を起こし、
記憶をなくす。
居眠り運転のトラックが突っ込んできて、
起きた事故だった。

そのとき、同乗していた彼女が死亡する。

彼女は、死ぬ間際に意識を取り戻した彼女は、
献体を希望する。

体は回復した、主人公は、
解剖実習に臨むが、その解剖する相手が、
実は、彼女だった。

という話。

まず、ありうるのか？
というところ。

偶然というのなら、ま、しかたないが、
これは、ある意味、必然。

つまり、学んでいる大学で、
彼女が死んでおり、その大学での解剖実習に、
彼女があたるということは、偶然ではありえない。

このような、必然を関係者が許す、
その根拠が、いまいち、よくわからない。

まず、そこが入り込めなかった根本。
ただ、それだけではなく、
ストーリーは、とても、観念的に進む。

現実の世界だけでなく、
主人公の夢の世界が出てきて、
彼女と、そこで、とても、安らかな関係を築いている。

それは、映像の色彩に現れていて、
現実世界は、医学生ということもあるが、
とても、モノクロの世界であるのに対して、
夢の世界は、色彩にあふれている。

何が現実なのか？
を問う作品なのだと思うけど、、、
それを、観念的に描こうとして、
そして、監督が描きたい世界を描けてはいる気がするが、
正直、面白くない。

だから？
という感じ。

役者も、私、KIKIの演技が苦手なんだよね。
死んだ彼女役の人も、そんなにうまく感じないし。
ダンスは、いい感じだけど・・・

浅野さんは、いい演技してると思うけど、
それだけじゃね・・・

いまいち、私には、合わない映画でした。

主演の浅野忠信、圧倒的な存在感です。

　ヒロインの柄本奈美、クラシックバレエの新星ということですが、ナチュラルな演技と、「生と死」を表現したと思われるコンテンポラリーダンスの迫力がすばらしい。

　あらすじは公式ＨＰにけっこう詳しく紹介されています。主人公のモデルとなったのがレオナルド・ダ・ビンチであるとか、愛する人に献体した女性が過去に実在したとか。

　愛する人、あるいは尊敬する敵の肉体を食べて、自分の体の一部として取り込むお話とか、愛する人の骨粉を飲んで一体感を手に入れる話とか、時々ありますが、これは愛する女性を解剖する実習生の話です。

　映像は、現実世界では青い照明での雨のシーンが印象に残ります。またあちらの世界は、緑濃い南洋の島として描かれています。どちらも印象に残る色使いをしていますが、特に私は青の美しさに心惹かれました。

　「ちょっとあれ、やばいですよ。」と他の実習生に言われるほどの、主人公の死体への愛。「死んじゃった人には勝てないじゃない。」というこっちの世界の女子大生の叫び。そして主人公は、最後には「こっちの世界がほんとうだったんだ。」と、徐々にあちらの世界にひきこまれていくのです。とても幻想的な作品です。続けて3回も見てしまいました。