僕の美しい人だから

理屈や年齢じゃなくて、ぼくの魂の叫び、体も心も「ぼくの美しい人だから」。
（邦題良いです！日本人には原題のままなら意図が伝わらない）

臨床心理学の本に「アニマ・アニムス」を勉強するために最適な教材として、この映画が紹介されていました。

人は社会の一員として外的環境に適応するために意識的に心にペルソナ（仮面）をかぶせる。良い母、良い父、良い子供、お客様にはニッコリ笑う、部下には威厳を持つ。無理してでも社会に適応しようとし続けると、自分自身を見失い、何を感じ、何を求めているのかわからなくなる。
外的なペルソナに対して、自分自身の内なる魂（ユングの「soul」）とのつながりを持ち、活き活きと活気づける霊的な存在が、男女それぞれのアニマ（男性が求める女性像）・アニムス（女性が求める男性像）である。
（本を思いっきり要約↑）

アニマに気づき劇的な変化を遂げたマックス。
脚本が素晴らしいからセリフの一部だけ抜き出しても、それがわかる。

若く美しい妻を交通事故で失った悲劇の主人公、禁欲、セントルイスの高級住宅街、エリート広告代理店勤務、音楽はクラシック。同じ環境の裕福な友人たち。マックス（ジェームズ・スペイダー）は、そんな、仮面（ペルソナ）をかぶって生きてきた。
几帳面で融通がきかない男ほど、魂の奥底で気付かなかった女性像（アニマ）に惹きつけられる。
死に対してノラ大笑いの後のセリフ「人が死んでも世界は動く」
（マックスの心も動く）
一夜限りのつもりが「昨晩、壊した郵便受けを直しに来た」
「私は43歳よ」「僕は27歳」セックス優先の愛のはじまり。
（禁欲のペルソナが剥がされる）
「会えないと混乱している。会うと違う混乱を覚える」
公園でマックスがノーラの靴ひもを直してあげた良いシーンの直後に、ジョギングする友人の父から逃げるように顔を隠しながら道をそれる。
（自分のアニマに気づきながらもペルソナは剥がせない）
上司ローズマリー（キャシー・ベイツ）「急に人生が楽しくなったんじゃない？」「彼女はどこのお嬢様？」
（やはり、今までのペルソナを剥がせなくなる葛藤）

霊的な存在のアニマ・アニムスを「人」として具現化していたのがノーラの姉。
姉のスピリチュアルによって「教師になりたかった」
（ペルソナをかぶる前の自分に気づく）

でも、ペルソナを剥がす葛藤に揺れながら、母のきつい一言「若くないね」。
さらに、パーティーでの周囲の反応。

ノーラも、自分のアニムスに気づき、汚れていたペルソナを剥がし、活き活きと美しくなる。しかし、気づきながらも旅立ちを選択…。
ノーラの置手紙。
「あなたのおかげで私は自信が持てた。私はあなたにふさわしくない。あなたが私のことを恥じているのは事実。愛している。けれど、私を捜さないで」

「掃除機にほこりが一つもついていない！」
（ペルソナを剥がす決意と行動）

N.Y.のレストランで働くノーラと再開。
「大卒の女の子を捜しなさい」（あなたに相応しいペルソナ…）
「今までの部屋は処分し、今はN.Y.の狭くて汚い部屋に引っ越した。僕はもともと教師になりたかったんだ。」
テーブルの上の熱い熱い…ラスト。
レストランのみんなが、ウォー！パチパチパチのラストはアメリカの良さ。

原題（原作）の「White Palace」はノーラが働いていたハンバーガーショップの名前で、アメリカではマクドナルドより老舗のハンバーガーショップ「White Castle」がモデル。臨床心理学関係なく「恋の障害＝アメリカの格差社会」の「暗」の象徴がこの映画のタイトル。
それゆえ、アメリカの「明」のラストに私もレストランの客と一緒に拍手。

この映画で観ている自分のアニマ・アニムスに気づいた人、出会えた人。
気づいていた、出会えたけれど、ペルソナを剥がせな（かった）い人。
現実はペルソナを剥がせな（かった）い人の方が多いと思う。
そんな人にこそ、切実にわかる映画かもしれない…。
（切実にわかる私は名作評価！）

ちなみに、この映画の外的（ペルソナ）評価は1990年ゴールデン・グローブ でスーザン・サランドンがドラマ部門女優賞ノミネートだけ。でも名作！

ポッシュさんも大層お気に召されたようで嬉しい限りです。
この作品は脚本はもちろん良いですが、グレン・サヴァンの原作が良いです。
原作あっての脚本と言えます。

友人に勧められて原作に出会ったのが１９９５年９月、同じ月に映画も観てます。
なんでそんなによく覚えているかと言うと（手帳をめくってはいるんですが）、同じ月に『マディソン郡の橋』を同じ友人と観に行っているんです。
観終わっての感想が”ケッ！”（品がなくてごめんなさい）だったもんで。
それほど『ぼくの美しい人だから』は美しく優しく響きました。
いまさらですが、ノーラとほとんど同じ年だったんだわ（笑）。
あれから○○年、おとぎ話はないです・・

もちろんおとぎ話、有るわけない。
でも、一瞬の真実なら有る。
ボロボロヨレヨレになった中年女にもピカピカの誇りぐらいあるんだから。
そうやって生きようねって。

『マディソン郡の橋』のフランチェスカなんかどっちが奇麗事だ、嘘つき女、なんて怒りましたね。今でもおんなじ気持ち。

原作者のグレン・サヴァンは第一作目がこの本で、２作目を出しただけで数年前４９歳で亡くなったんですね。２冊だけを遺したと知ってシンミリ。

私より年上だ、この設定。
確かにスーザン・サランドンは綺麗です、この年にしては。
でも、ちょっと本当にこれって有り？
私の身にはとても起こりそうにないなぁ・・・。
ちょっと、うらやましい。
でも、このラスト、やっぱり無理があるような・・・
いまいち、感情移入はできませんでした。

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　いいな、いいな、コレ。

　Bokensdorfさんご推奨のアルヴィン・サージェントが脚本を書いているということで、急きょ予約リストの順番を１番にして手に入れました。

　どんなお話か、ということは、ひらりさんの素晴らしいレビューをお読みください。

　（以下、かなりネタバレです！）

　年の差＆身分差カップルの恋愛。お互いに心に傷を持つ者同士が惹かれあった・・・出会いのきっかけはそうだけど、結局のところ、この２人を強烈に結びつけているのは「体」。どうなんでしょうか、私は汚れきった大人なので、そういうのもアリと思えてしまう。逆に小賢しい理性だとか意識だとかを超えたところで「離れられない」というのが、真実のようにも思え。

　脚本、やっぱりイイですね。彼の想いがホンモノかどうか測りかねたノーラ（スーザン・サランドン）の一言。

　「これからどうしたいの？私は気が向いたときに箱から取り出すオモチャなの？」

　うえ〜ん。切なすぎ。

　初めて出会った夜、酔って車をぶつけてしまったマックス。ヘッドライトの片方が壊れてしまうのですが、ず〜っとそのまんまにしてる。思うに、このとき彼自身も壊れたのだ。壊れたというのは、社会に対して繕ってきた表向きの自分が一部崩れたということ（この辺の分析はひらりさんの“ペルソナ”の話からひらめきました）。そして、そのことが彼自身も心地良かったから直さないでずっとそのままにしておいた。所詮自分とは不釣合いな女、一晩限りの相手、としてすぐに忘れて元のスノッブな環境に帰るのが賢明なのに、そうはしなかった。できなかった。

　ところが、自分から去って行った彼女を迎えに行くとき、彼はずっと放っておいたそのヘッドライトを直すのですよ。このシーンはほんの数秒で流れてしまって分かりにくいのですが、ものすごく重要な絵。だってここは、彼がノーラを選ぶことを世間に表明する決意を表わしているから。

　それまでは彼女のことを恥じていたマックス。なんで彼女に惹かれてしまうのだろう、これは本当の自分ではない、と心のどこかで思っていたんでしょう。だから、あのヘッドライトの壊れた車は「今のボクは壊れています」という世間に対する言い訳だった。でも、もう、違う。彼は自分自身を変えたのだ。生きる道を新たにし、ノーラを選んだ自分こそが本当の自分なのだ、と世間に対して堂々と言えるようになった彼だからこそ、あそこで車を直したんだと思う。

　現実にはこんなこと起こりっこないでしょうね。一時の情熱でくっついても長続きはしないだろうと思えてしまう。でも、だからこそ、映画の中で夢を見たいワタクシは拍手喝采。ついでに個人的な話をすれば、自分もノーラと同じワーキングプアの部類だし。以前、有料老人ホームに勤めてた時には、お客さんがいわゆるお金持ちばかりで、何度も言われました。「貴方なんでこんな仕事をしているの？」と。

　現実はしょっぱいです。でも、まぁ、もろもろ小さな幸せがあるので大丈夫ですけどね。映画も小さな幸せのうちの１つ。今日もイイ作品にめぐり会えて幸せ。

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ボッシュさんのレビューを読んで予約をして約半年。やっと順番がまわってきました。

女性にとってはとても嬉しくてありがたいお話だなと思いました。
若くも美しくもなく酒癖が悪いヘビースモーカーの中年女性が、若く美しく裕福な１６才も年下の青年と知り合い、恋に落ちていくのですから。
出会いやきっかけはどうあれ、青年はどんどん中年女性にのめり込んでいき、自分自身との葛藤を経て最後には肩書きや気位など自分に付いているものをすべて捨て、中年の彼女の元に走るなんて！！
女性がすべてを捨てて男性の元に走るパターンはよくありますが、こちらは全く逆ですね。
どうしてそこまで彼女に魅かれたのでしょう。
男が安心してくつろぐことが出来る、母親のような包容力？
愛する人を失ったという、共通の痛みを分かち合うことが出来るから？
彼女の健気さが心に沁みた？
う〜ん、どれも違うような気もする。
美人カメラマンのホームパーティーで空っぽの掃除機を見て、「ゴミが何も入っていないじゃないか！！」と叫んだ彼は何を思ったのでしょうか。あの後、彼女の元に突っ走りますよね。
空っぽの掃除機は単に飾りであり、今までの自分の生き方も単なる飾りだったと思ったのでしょうか。
そして、掃除機をかければゴミで一杯になるであろう、散らかり放題の彼女の部屋にこそ、本当の生きる力があると思ったのでしょうか。
高学歴で一流企業で働き高収入を得て、高級住宅地の広い家で美しい妻と裕福に生活をするそれが人生…　そう信じていた彼は、それとは全く逆の彼女に目が覚めたのですかね。
生きるっていうことは汚れることだ！！　美しく汚れずに生きるなんて、そんなのは生きるってことじゃない！！
（別に中年女性が汚れていると言うわけではありません…）

ラスト、レストランで小さなテーブルに彼女を押し倒してのキスシーン。周りの客はヤンヤヤンヤの大歓声。拍手で二人を祝福します。この、アメリカ人の寛容さ！！　わたしが一番気に入ったシーンです。