ニュースの天才

　“THE NEW REPUBLIC”ほどの雑誌で幾重の校閲やチェックをくぐり抜け、ねつ造記事を作り続けたグラスの手腕は驚くべき高レベルだと思います。そのくらいメジャー誌は刷り上がるまで多くのプロが確認作業しているわけで。セコいねつ造記事などは簡単にバレてしまうはずなのです。本当に彼はジャーナルの現場ではなくエンタテイメント方面に進めば、かなりの大物作家になったんじゃないでしょうか。
　他人からの評価を人一倍気にする心根が矮小であるグラスが、少しずつ作り話を見抜かれていき、懐疑の眼差しが増えていく後半の流れは観ていてテンションが上がりました。
　追いつめられる彼の心理は、たぶんすべてを捨てて逃げ出したいほど平常ではなくなるのですが、それを表現する演出（演技）がいわゆる勧善懲悪モノの悪役のようなオーバーアクションではなかった……それがレビューで評価が低めだった原因じゃないでしょうか。私はクリステンセンの抑えた演技にかえって好感を持ちましたけど。
　我々の身の回りでもねつ造記事やヤラセはイヤというほどあります。普天間基地移転問題や政治資金規正法、それに政党や政府の支持率などはマスメディアに登場する件数が多すぎて、何が真実で何がねつ造で何が演出なのか見分けがつきにくいじゃないですか。
　この映画はメディアリテラシーを喚起するものではありませんが、観た後でいろいろ考えたのです。
　ジャーナルのようなエンタテイメントは日常に存在していて、我々はその中でも“わかりやすい”ものに手を伸ばしやすい。だけど、ひとつの記事やニュース映像をもってすべてを知った気になったり、暴走するのは愚かだとあらためて思いました。

記事捏造って、多少はあるのかもしれないけど、
権威のある雑誌でやっちゃったことが大事件なのかな・・・。

それほどの雑誌の編集時点で何で誰も疑わなかったのかな？
チェックがスルーだったの？と思う反面、
どれも「ありそうなゴシップで面白い」から、周りも流されちゃったのかも？と思ったりした。

それにしても、この主人公、ちょっと甘えすぎなところが
イラッとしました。

いくら、面白い記事を書きたいあまりの行動とはいえ、
裏付がまったくない、バレバレの嘘を書きながら
その事実を突きつけられたら
「僕は悪くない」「プレッシャーが悪い」「このまま１人にされたら何をするかわからない」云々・・・。

それに対し編集長が裏を取り、厳しくツッコみ、突き放すところは
「そうでなくちゃ！」と少しスッキリしました。

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スティーブン(ヘイデン・クリステンセン)の捏造記事による栄光と転落を描いた作品であるが、それだけでは終わっていない。チャック(ピーター・サースガード)の成長ドラマとしてみることができる。二人を対比させる構成がなかなか巧い。人望の篤かったマイケル(ハンク・アザリア)の後任として新編集長に抜擢されたチャック。就任早々に巻き起こる捏造疑惑。スティーブンを庇おうとする社内の空気に対して、どう対処するか。ケイトリン(クロエ・セヴィニー)へ語る報道誌の思いが激しく胸を打ちます。

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この映画は実話を基に作られたってことも知ってたし、
本人談として一時期テレビでも取り上げられてたりしたから結末は知ってたんですが、
ひとりの男が自業自得で窮地に立たされていく姿は、なかなか興味深く観られました。

全てが作り話だとは思えない程、主人公スティーブンが会議で流暢に話すから
みんなそれが捏造だとはまったく思わなかったんだろうし、
彼自身、仲間への気遣いだったり優しさで、人間性を評価してもらい、
信頼まで得ている姿が映し出されるていて、ここまで用意周到だと怖いですねぇ。
自分の記事の正当性を真実ではなく、人を欺き続けて獲得していたのですから。

がしかし、ボロが出始めるともろくも崩れていくのは早かったです。
裏づけは一冊のノートだけで、疑わしい所を突かれたら自転車操業的に、偽の電話番号、
偽の声主、偽のサイトを偽装して切り抜けるも、最後は断崖絶壁に追い詰められ、
自分の仕出かしたことに怯え、有名雑誌社の記者という地位を失ったことに泣き崩れる。
若干25歳の若者は、自信満々で記者として活躍し、捏造をいとも簡単に、
かつ堂々とやってのけた表の顔とは裏腹に、その裏の顔は意外にもとても弱々しいものでした。
まぁ自業自得なので、なんら同情の余地はありませんが。

今思うと、自分の捏造した情報に仲間たちがどんな反応をするか、
いつも会議で恐る恐る聞いていたことに気付きます。
エンターテイメントとして彼の記事は、仕事仲間たちの興味をひき、
心を掴み、結果この世に27もの捏造記事がうまれてしまった。
社内の誰も彼の嘘を見破れなかったのですが、それは彼らの責任ではなく、
彼はみんなをも巻き込んでしまったんだと思います・・・
真実を伝えようとしていた記者や編集者たちにまで汚点をつけてしまった罪は重いのではないでしょうか。

彼の大それた行為は、のちに本として出版され、こんな映画にまでなってしまって・・・
当人はほんとに反省してんのかぃ！？と、疑わしいのですが。。。
ロースクールを卒業したらしいけど、彼に弁護を依頼する人っているのだろうかｗ
逆に嘘のプロフェッショナルってことが売りになるのかもしれませんね。

スティーブンを演じたヘイデン・クリステンセンの演技、良かったんぢゃないでしょうか。
自信満々な青年がどんどん窮地に立たされ、嘘に嘘を重ね、そして自爆していく様が印象的。
苦しい嘘の数々が彼の口から零れ落ちるたびに、むしろ痛々しい気持ちになっちゃいました。
人って追い詰められてつく嘘ほど、見苦しいものはないんだなぁって、つくづく思いました。

では嘘をついたことがないのか？と聞かれると、
今ここで懺悔します。
たくさんの嘘をついてきてしまいました。
そして、その度に胸がチクチク痛みました。
「人を傷つけてはいないし、誰にもバレていないからいいじゃない」とタカをくくっていたら、唯一人、私が嘘をついている現場にいて、ずっと責め続けている人物がいたのです。
それは、ほかでもない私自身です。

でも世の中には、口から出まかせを言い続け、自分自身をも信じ込ませる特技を持っている人がいるのですね。
この作品の出来事、アメリカのことなのでよく分かりませんし、間違った解釈をしているかも知れませんが、彼の捏造した記事は、政治家のゴシップであって、国を揺るがすようなことでは無かったのでしょ。
それが唯一の救いですし、ゴシップなどを面白がる傾向についても恥じなければいけないのではないでしょうか。唯、こんな人物が報道に携わっていることは危険であることには違いないですが。
映画の中の主人公は今の若者がよく口にする「受けネライ」「ノリで〜」の雰囲気で、面白いニュースをつくった天才だったということでしょうか。
でも、彼一人の責任とも言い切れない。
面白ければ飛びつくという未来永劫変わらぬ、人間の悲しい習性がある限り
功名心を得たいという欲望がある限り、利益第一主義の現実がある限り、
大なり小なりの発信者の創造は無くならないと思われます。
自分で直に見聞きして咀嚼した事以外、全てのものを鵜呑みにするのは止めておいたほうがよろしいのでは、というのが結論でしょうか。