インランド・エンパイア

これが「分かった」という神な人のことはとりあえず放っておくとして・・・（笑）

その昔、不条理マンガ「ゴールデンラッキー」の秀逸な帯文に“「分からない」を分かれ！”というのがあったが、まずは「分からない」がイイかダメか、というところで評価というか好き嫌いが２分されるんだろうな、と。

「分からない」がダメな人は止めておくことをおススメする。また、ヘタな選民意識で観るのも、人生の貴重な３時間を無駄にするだけに終わるので注意。実は僕自身、３時間無駄にした？と感じている部分が自分の中で３割くらいあったりする。

「分からない」がイイ！な人には「いや、でもね、半端な分からなさじゃないですよコレ」という言葉を添えて、観ることをおススメ。

どんぐらい「分からない」かって言うと、鬱になった村上春樹にキューブリックと榎本俊二の分からない部分を抽出したエキスを注入した感じ（かなり自分本意な表現でどうかと思うけど、多分この映画を観ようって人はかなりの高確率で「えの素」３巻セット所有者だと思うので、お赦しを）。あ、村上春樹って名前を出しちゃうと「そんではそれなりにとっつき易いところもあるのね」と思われそうだけど、「鬱」ですから。パラレルワールドの跨ぎ方とか、非現実的な戯画的キャラや女の子の使い方とか性的な仄めかしとか、そこらへんに何となく（あくまで「何となく」ですよ）共通するものを感じました、っていうくらいで（あと、確か昔の短編小説に「帝国の崩壊」っていうのもありませんでしたっけ？）。

映画でも本でも音楽でも、通して鑑賞すれば何らかの形で自分なりの解釈をヒネり出し、そのフレームの中で事後的に全体に濃淡をつけることができるのが普通だ。どんなに難解と言われている作品でも、この作業さえできれば一応「分かった」ことにはできる（その理解の正誤や社会的適切さは別の話として）。

ただ、僕vs『インランド・エンパイア』の場合、少なくとも一回見終わって、最後に後付けで何らかのスジを通そうとしても、直後にはほとんどな〜んにも思いつかなかった。平たく言うと一切「理解」が生まれなかったのだ。難解で知られるリンチ作品とはいえ、バカ丸出しでお恥ずかしい・・・が、あったのは悪夢から覚めた後の脱力感と浮遊感だけ。

もちろん、所々でスジらしきものを通せそうな箇所はあるんだけど、５分と持たずそれまで自分の頭の中で引いた薄い線はず捻じ曲げられて他の線と唐突につなげられたり、乱暴に塗り潰されたり、あるいは閃光や薄闇の中に沈められたりする。そして、攪拌されたイメージから新しい理解が生まれる前に物語は進み、頭の中には「理解」まで結晶することのできなかった茫漠とした感覚と、かろうじて各シーンを繋ぐ記号（人物であったり、音であったり、モノや意味不明の落書きだったりする）が浮遊する…そんな状態が３時間続いて、独特といえば独特な感覚が享受できる。まあ世の中「独特」でも別に享受しなくていいものは死ぬほどあるので、ここらへん、別に褒めてるニュアンスは無しで（笑）。

それでも何かしら自分なりに作品が投げかけてくるテーマのようなものを仮定するなら、『とりあえずの主人公であるニッキーとその鏡像のような「ロスト・ガール」という他者の見る夢を理解できるか』という問いになるんじゃないかと思う。

「人それぞれの解釈があっていい」といいながら、実は予め許されている「解釈」がせいぜい三者択一であるようなエセ主観主義作品（偽装された「主体的」な判断を通じて真にユニークな読解力や判断力を麻痺させるもの）は、この映画の後に軽々しくそんな看板を下ろさなければならなくなるはずだ。そういう意味で、この映画は人間の読解力・解釈力の本質的な部分を起動させることを求めているのではないだろうか。いつの間にか自分の内に出来上がっている惰性的な理解のフレームという『内なる帝国（INLAND EMPIRE）』を内破するために。逆に言えば、この映画を（何とか「理解」の端緒だけでも掴もうと苦闘しながら）観ることで、人は「日常的で鈍感な理解のフレーム」が知らず知らずのうちに自らの中に、それこそ「帝国」的な周到な狡猾さをもって築き上げられていたことに気づかされるのだ。そうなるかどうかは、偏にリンチの構築した「夢」の映像に触発するか退屈するか、どちらなのかに賭かっているのだろう。

あら何かカッコよくまとまっちゃいましたね。

エンディング近くの二人の女性の邂逅とエンドロールのドンチャン騒ぎによるカタルシスがとりあえずのピリオドを打ってくれるので、意外にも変な残尿感はない。分からないなりに後味はサッパリしている（？）ので、あんなに辛かったのに終わってみるともう一回観たい、という気になる・・・が、直ちにもう一度再生ボタンを押すのはやはり勇気が要るな〜（笑）。

現実と虚構と空想、今日と昨日と明日、私と貴女とウサギが、混沌と現れては消え、ある時は絡み合いある時は擦れ違うだけ。
多重構成を成すストーリーの核は同様であるが、おぼろげに変容を繰り返し重複して展開し、収束もあれば放逐もあったりする。
少ないセリフは意味深で核心を突くものであったり、意味不明で惑わせるものだけであったりもする。
まがまがしいリンチのイマジネーションが、フォーカス・照明・音響の作為でもって、普通のものを異形に置き換える。

これら全ての要素が一斉に放たれ、身近な存在が、それは夫であったり隣人・愛人であったりするのだが、見ず知らずの存在に変貌し、更には己のアイデンティティも不確かな存在に貶められる。不確かさは居心地の悪さを感じ、安寧の正解を求めるため、これは何かと自問を続けることとなり、観る者は映像に隠された真意を探し求めるのだが、そこには真意は有らず、ついには意思が内なる自身の深い場所を探究することとなり、自分成りの回答、安らぎを得ることとなる。
そこが、インランド・エンパイア。深部の帝国、自我と言えるもので、本作によって導かれる場所ではと思ってしまう。

合法的なトリップ・ムービーとも言えます。

デヴィッド・リンチという監督は僕は好みではなく、過去作品も「ワイルド・アット・ハート」を除けば面白いとは思えませんでした。
しかし、本作は非常に面白い。というのは、リンチはこの映画でデジタル・カメラを使って撮影しているわけです。
デジタルはフィルムとは違い即物的な質感の映像になるため、彼の作風と相性が良かったのでしょう。
リンチ的アップ（めちゃくちゃクローズアップの多い映画でもあります）にしてもフラッシュにしても、デジタルの殺伐とした映像によって酩酊感が増幅されていると感じます。

苦手な監督で180分、恐る恐る拝見したのですが、これは観て良かったと思いましたね。
ただし、終盤の辻褄合わせはできれば無い方がより面白かった。

星★★★★★です！

３０分から１時間くらい見ている間に寝てしまっていて、
翌日、昨日見たところからまた見始めると、
あーこのシーン昨日見てるなぁというのを
五日間くらい続けて見終えた。
本当は最後の最後まではちゃんと見ていないんだけど。
でも薄ぼんやりした意識の中で
大勢の人たちが踊っていたシーンが流れていて、
多分あれで終わりだったんだろうと思って、
とりあえず見終わったことにしてる。

こんな鑑賞の仕方で星５つとか言って、
全くけしからんとお思いになられるかとは思いますが、
星５つなんだからしようがない。
断固星５つです。
この映画に対して、そういう評価の仕方しか僕にはできないのです。

・・・・意味分からん。デイヴィット・リンチワールド炸裂だ。
意味わからん３時間もある映画なのになぜか魅了されるデイヴィット・リンチワールド。
やはり人は綺麗事を言いながら、カオスを求める。俺だけか？