ナイロビの蜂

主人公と、彼の妻との、心の軌跡を描いた作品でした。

バックグラウンドになるのは、アフリカを食い物にする大企業と、その利権目当ての政府の陰謀であり、あらゆる場面にドキュメンタリー・タッチの映像が挿入され、現実感を盛り上げてくれます。
最初、あまりに自分勝手に思える、妻の言動に苛立ちを感じるくらいだったのですが、話が進むにつれてその言葉の意味がはっきりしてきます。
主人公の気持ちの移ろいが共感でき、ラストのシーンで、「ああ、これでよかったんだ」と妙に一人で納得してしまいました。

現地でも、スーツをビシッとキメてたイギリス人の主人公が、最後は汗だくのTシャツ姿になり、身も心もアフリカの大地に染まっていくのでした。

良くも悪くも「子供」を撮らせたら世界一の監督だと思う。
（『シティ・オブ・ゴッド』と、この作品２作だけなので、私の独断と偏見（笑））

この作品は、夫婦愛の映画であると同時にアフリカの貧困国の耐えられない現実を描いた社会派映画。公開時の宣伝コピー「地の果てで、やっと君に帰る」。
だからと言って、サスペンス恋愛ムービーをウリにしていた側面だけで観ると肩スカシの映画となります。社会派映画の背景をしっかり感じながら、ラストに込められた、真の「愛」＝「自分との同一化の愛」を知ることができる映画です。

この監督の作品は編集によって練られた映像が特徴ですね。
冒頭も襲撃シーンはなくて、いきなり横転ジープの茶色の地面と真っ青な空。
観ている方も「撃たれた」気分になる、放り出された斜めの超ローアングルのカメラ。

で、『シティ・オブ・ゴッド』の時もそうなんだけど、観ている私の心に「叫びたくなるような痛み」の感情の高揚が伝わってこない。
（子供の悲惨な運命に心の中で何度も叫んでしまった『イノセント・ボイス』と比べて…）
この作品は「お涙ちょうだい映画じゃないぞ」と、感情移入しようとすると客観的映像に突き放される感じ。
監督自身の映画製作方法のインタビューのなかで、「脚本があっても編集段階でストーリーを再構築してしまう。ドラマの緊張感を、編集の段階で創り出す」と言っています。
心に葛藤をともなわない撮り方がフェルナンド・メイレレス監督の作家性なのかとも思う。
（↑独自の「エンタメ映画」と評価されるゆえんかなぁと…）
ちなみに、この作品で2005年 英国アカデミー賞にてクレア・シンプソンが「編集賞」。

こうゆう考えさせられる社会派映画観ると、ついつい調べてしまう。
社会派映画の側面は、ジェネリック医薬品の問題等、masamuneさんのレビューが参考になりますね。まさに監督の出身ブラジルも同じ状況で「この映画は製薬会社への復讐映画（笑）」とフェルナンド・メイレレス監督もインタビューに答えていました。
データが古いのですがイギリスの対アフリカ武器輸出額は2000年から2004年にかけて200億円を超えている（today's_news_from_UK+）ことも見逃してはならない。
援助の欺瞞＆貧窮の内紛をも助ける欺瞞。このイギリスの２つの欺瞞も知っておきべきことだと感じる。

2005年 アカデミー＆ゴールデン・グローブでレイチェル・ワイズが助演女優賞ですが、レイフ・ファインズとのシーンは監督の求めに応じたアドリブが多かったとのことです。
この２人が演じた「夫婦愛」はネタバレで…。








＜ネタバレ＞
「子供」を撮らせたら世界一。
姉の看病のために、優しくしてくれたテッサの葬儀のために、40kmの道のりを徒歩で往復する子。援助を振り切って、飛行機から飛び降り見送る子。
難民キャンプに訪れたルポルタージュカメラのような撮り方。そのカメラに笑顔でこたえる子供たちの表情。
『シティ・オブ・ゴッド』の時の残酷さとは真逆の無垢（むく）な様子。
雄大で美しいアフリカの大地と、この子供たちの映画とは思えない無垢な表情が、悲惨な現状を倍増させる。

ラストに込められた、真の「愛」＝「自分との同一化の愛」。
妻が殺された同じ、あの場所のシーン。
恋愛を越えた先にある「自分との同一化」の愛情による完結。
妻の人生を知る旅が自分の人生の旅の終着点。
一瞬、自殺と思わせておいて、殺されることを待つ。
自分が、殺されることで、妻の意志を社会に伝える。
そこまで、妻の気持ちを理解した。
「自分との同一化」の愛。臨床心理学者の言葉を借りると「超越に触れる愛」。
この愛は、宗教の愛よりも強い愛で、全てを悟った覚悟の後ろ姿は、満ち足りた本当の「幸福」を手にすることができた姿なのかもしれない。

余計な深ヨミ。
某サイトで「出会ってはいけない二人」と言うレビューもありましたが、この二人は違うと思う。エンドロールが流れる中で、私が考えたことは、妻も死を覚悟し行動していた。
夫に伝えなくても「夫は私の気持ちを理解し、行動してくれる」と信じていたのではないだろうか…（伏線となっている手紙から）

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これでワイズが助演女優賞か。。。
たしかに妊婦ヌードまで披露して大熱演には違いないけど、オスカーほどとは思わなかった。

この映画はいい映画だと思います。

テーマも壮大、アフリカロケもすごいし。
ただ、この映画のテーマの夫婦愛、これがイマイチ感じられなかったんだよね。

ジャスティンのテッサに対する愛は感じられたけど、テッサは？？
まあ、ここがこの映画のサスペンス要素につながってくるんだろうけど。

妻の死の真実に気づいてからのジャスティンが別人のように行動を起こします。
テッサはジャスティンに話せばよかったのに。。。
そうはいかないのかな？ジャスティンはガーデニングにしか興味がなかったから。
原題はTHE CONSTANT GARDENER 。私はどっちかというとこちらよりだな、と反省。

テッサのように熱くは生きられない。

一生懸命観て欲しい映画ですね。

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妻の死を機に大企業の陰謀に気づき真相を解明しようとする夫。

妻もそうであったが、この夫も、巨大な悪に個人が立ち向かうんですね。
正義感とか、妻の死を無駄にしたくない気持ちは伝わります。
でも・・・本人までもが亡くなった後に真相がわかるという皮肉的な結末を迎えるんですよね・・・。

なんだか、亡くなる前になんとかならないのか、
というジレンマを感じてしまうと同時に
正義のために巨悪に立ち向かうには死のリスクを考えざるを得ないのか
と、どんよりした気分になってしまいます。

この夫ももちろんそれを覚悟していたのだろうけど・・・。
だから、「それなら妻の最後に居た場所を選ぼう」と思ったんでしょうね。

真相が明らかになったのがせめてもの救いです。

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彼は彼女を「見て」いたか・・・
彼女は彼を「信じて」いたか・・・
きっとそれは二人だけのフィーリング。
こういう信頼関係もあるのかな。
庭弄りばかりしていた外交官の夫は、妻の死をきっかけに「真相と闇の舞台」に立つことに。
妻の隠していたこと。
妻の苦悩。
妻の愛情。
それを知るにしたがって溢れる妻への想い。
寂しさ。
悲しさ。
そして使命感。
帰る家を失ってしまった彼は、自分に待ち受ける結末を覚悟し、早い段階でその結末を受け入れていたのかもしれません。
彼の決断は「あきらめ」にもとれる。
生きることの放棄にもとれる。
乗り越える事の放棄。
新しい人生の放棄。
舞台から降りる選択もあった。
しかし彼は降りなかった。
最後まで「知る」ことを選択した。
愛する女性に辿り着くことを選んだ。
帰り道を探しながら。
「ただいま」・・・・
どうか彼に「おかえり」が聞こえますように。
愛しい我が家から届く「おかえり」が聞こえますように。

難しいテーマを扱っているのに結構観易かったです。
それは「ラヴ」が絡んでいるからかな。
雰囲気も良くて惹きこまれました。
脱力感に襲われる現実を目の当たりにして。
それでも「映画の中」でしか気持ちが揺らがない自分がいて。

レイチェル・ワイズ
ステキでしたね。
映画によって印象がかなり違うレイチェル。
凄くステキだったり、イモっぽかったり。
今回はかなりステキでした。

レイフ・ファインズ
この手の役にもってこい。