ワイルド・アット・ハート

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最近、古い映画のレビューを書いてしまいこの作品も
思い出深いので勢いあまり書くことにしました。

まず、予告が鮮烈でした。
これでもかという位ドアップでマッチの火をつける
シーンが唐突に始まります。
それも日本にあるちまちましたやつじゃなくて蝋マッチ
と云うんでしたか、よくジーンズなんかでこすって火が
点くやつですね。
それでまた着火した音がまた増幅されてすごい燃えっぷり
なんです。マッチの先がスクリーンいっぱいに出る訳です
から（笑）

予告編を見て程なく公開となりましたが、カンヌで最優秀賞
（パルムドール）捕ったのに単館ロードショーですよ！
今でいうと「ミニシアター」的扱いです。
当時、私個人的には「３館ロードショー」と呼んでました。
銀座と新宿と渋谷の３館でしか公開してないんですもん。

こんな公開の仕方当時結構あったんですが、カンヌを制覇
したのにこんな扱いをするなんてなんて罰当たりなと思い
ました。よくよく考えるとパルムドール受賞作って意外と
万人受けしない作品が多いんですけどね。

物語に出てくる恋人は思い切りバカップルです。
そして不気味な連中が影でうごめいています。
プレスリー気取りのエーカッコしーをニコラスケイジが
やってます。ローラダーンは感情が高ぶると思い切り顔の
土台から歪みます。リンチ監督はきっとこの表情が好きな
んでしょうね。ブルーベルベットでも起用してましたから。

最後に唐突に天使がやってきます。
頭の打ち所が悪くて幻想を見ていたのかもしれません。
ニコラスケイジはまだ若手でその頃はトッポイ兄ちゃん役
ばかりやっていましたね。
でも、バーディを見て大ファンでした。

フランシスコッポラの甥とのことですが、監督の作品には
ほとんど出てないようですので、そのころから結構気骨の
ある頑固な俳優だったなと思います。

実はこの作品2、3回は見てます。今回スペシャル・エディションとゆう事で、久しぶりに見てみたくなりました。

マルホランド・ドライブやブルーベルベットとはまた違うリンチワールドですよね。
ニコラス・ケイジは実は苦手な私なんですが、ちょい馬鹿ぷりは笑えます。

リンチ作品にはお馴染みの俳優さんもちょこちょこ出てきます。
天使役のシェリル・リーがツイン・ピークスでは（世界一美しい）死体のローラ・パーマーなんですよね〜天使から死体へ…意味があるのか無いのか…

ニコラス・ケイジ演じるセーラー、馬鹿です、思いきり馬鹿です。
そこが見どころか。

ホントにデヴィット・リンチって何を考えているんでしょうか。

リンチは人間の不思議を見せてくれる。愛や、恐怖、不安、欲望など。それは形じゃないもの、目に見えないもの。それは脳の中で起こるもの。
それをリンチは伝え、感じ取らせる。このワイルド・アット・ハート は解りやすい愛をテーマにハッピーエンドで終わる。それゆえストーリーがどうなのかなどの批評を受けやすい作品かもしれません。バイオレンス・コメディなんて呼ぶのは間違いだと思う。笑かそうというより本気の映像のはず。だから面白い。85点

物語のベースはオズの魔法使いなんですね。
キャラの振り分けを自分なりに考慮して観るとリンチにしては「喰い足りない」と思える作品なのかも知れません。
全体的に「相手の目を見ない」で話している様な間接的な台詞回しと、肉の温かさばかり求めて「ソレ」が「何」で成り立っているか？なんて微塵も考慮しない表層的な交わりだけで完結してしまう御伽話です。
元々「他人」の家族の繋がりよりも自分から生まれ出でた命の繋がりと「肉と肉との接合」が在る存在だけを信じている者の価値観の往行と、殺伐として非生産的な生と性の関わりだけを重要視する人物だけが右往左往するので疲労感が蓄積します。
自分の股座からひりだした娘を溺愛する「西の魔女」の愚行と蛮行と自己愛が物語を進行させる燃焼剤なのですが周囲の人物も同程度の朴念仁だらけです。
人間って目に見えない刺に包まれた海栗みたいな存在で相手を傷付ける事でしか「愛」を刻み込む事が出来ないんでしょうかね？。
（多分）自分の本当の居場所を求めるドロシーの役回りのテーラーも根無し草で共感出来る部分は何も有りません。
彼に取って「家」で有り、愛犬トトの役割でもあるルーラーも奔放に女として生きる母のマリエッタの「血」の呪いかボビーの「ぶち込んくれって言えや！」と言う暴力的な性の誘い文句に女陰を潤ませ、後から罪の意識で泣いてみせたりもします。
「おうちへかえりたい（じかんをまきもどしたい）」
と踵をうちつけても呪文を唱えても足の付け根でジクジクと唇を奮わせる女の芯の存在を再認識するだけでしょうにね。
…救いが無い…。
でも、後の6年の空白では彼女はシングルを守っていた「様」なので随分後悔もしたのでしょうか？。
或いは「母」となってしまった自負と自信が彼女を母親より大人にしてしまったのでしょうか？。
突拍子もないテーラーの「自分自身の良心」との会話は既にコントの雰囲気さえ有ります。
彼が「妻にしか歌わない」と断言したラブミーテンダーが流れるエンディングまで観終わっても「？」と言う残尿感の様な不快な部分も感じるのは消化不良のまま、降板するキャラが多数存在するからなんでしょうか？。
ただ一つの救いは家族写真から「魔女」の姿が消えうせる部分でしょうか？。
子供はやがて大人になり「親」になる。
自分の親で在った存在は、やがて消え失せて灰になる。
悲しい生き物の根元的摂理。
事故で大渋滞する車の群れの中で愛する人を抱きしめて唄う道化師。
彼等を微笑んで見上げる瞳の持ち主が、その「シアワセ」の意味を歪曲して受け取らない事を祈るばかりです。

〜好きな映画ですが、決して面白くはないです。
意味深は映像は多いのですが思ったより仕掛けは無い様に感じました。