マイレージ、マイライフ

ジョージ・クルーニーは『ER』のダグラス・ロス先生のときからのファンだ。
だからこの人の主演映画はだいたい観ることにしているのだけど、何故か私とジョージの相性は悪いらしい。
今までパーフェクトにこれイイ！！って思った作品がないのだ。
アカデミー助演男優賞を受賞した『シリアナ』なんて、何故に受賞？というくらい私には最悪だったし、『ソラリス』なんてさっぱり理解不能だったし、かといってコメディーっぽい作品は、おいおい、ジョージ無理すんな〜、って感じだったし・・

そして本作。
やっぱりジョージと私の相性は相当悪いらしい…(T＿T)

今度こそは♪って凄く期待して観ただけに、この消化不良は何だろう？
人は誰かと繋がって支え合って初めて人として幸せなんだから・・ゴールドカードを沢山持っていても人間との繋がりがなければ空しいだけ・・ってことなんだろうけど、私には心を揺さぶられるものがあまり無く、どちらかというと退屈な時間だった。

いろいろ考え込んでしまった。
そうだよなー。
毎日、何のために働いて、生きてるんだろう…？
私も一人モンだし、まぁ、気楽なことは間違い無いし、好きでそうしてきた部分もある。

ライアンは、「バック・パックに入らない人生の荷物は背負わない」
というモットーを持ち、年間320日間は出張で移動する生活。
仕事は、リストラ宣告をその会社に替わって行う。
目標は、マイレージを1000万マイル溜めること。
人と深く付き合わない彼は、仕事に対するプロ意識はきちんと持ちながらも、ひょうひょうと、ある程度楽しい毎日を過ごしていた。
この役はジョージ・クルーニーが、ハマりすぎるくらいハマってます。
入社したての新人に、いろいろ気付かされる…っていう内容だと思ってたけど、ライアンの方も新人に、大切なことを教えてましたよ。
だから、ライアンは人間関係に冷たいってわけではないんですよね。

大体、大して大きな問題の無い時期は、仕事はもちろん多少の我慢は必要だけれど、すべての自由な時間は自分の好きなように使えるし、それはそれである程度幸福感も満足感もある毎日だ。
ただ、思いもよらない出来事が起こるのが人生。
彼にも、心が大きく揺れ動く事が起き、今までの自分を振り返る。

私もリストラに近い状態で、退職に追い込まれた経験がある。
経営者に、納得できる理由を述べよ、と言ってみたら、中身が無いから言えず、悪徳弁護士が出てきてすったもんだ、エラい目にあった。
頑張るのは当たり前だけど、もちろん自分なりに人生のかなりの時間をその仕事で頑張ってきたし、いきなり取り上げられたら、そりゃ、絶望もする。
私の場合は、同時に身体が壊れたので、まさに人生が足下から崩壊した。
その上、そんな自分の大ピンチに、支えになってくれる人がいないことに気づき、一番愕然とした。
一体私は、今まで何をしてきたんだろう？

あんなモンに、命賭ける必要なんか無い。
人によって、仕事に対する気持ちの比重って違うものだけど、私はそう思ったなぁ。
人付き合いも、めんどくさがってたら育たないよなぁ。
今、ゼロから人生を建て直してる最中。
結局自分を変えるのが難しいので、なかなか成長は見えないけれど。
ライアンと一緒に、いろいろ考えながら、後悔しながら、夢を探しながら、頑張っていこうかな。
それが人生ってことみたいだし。
いろいろあるけど、頑張ろうぜ、みんな。

って考えこんでしまうけれど、後味はさわやかだったと思います。

(ネタバレあり)

この作品、予告編を見ると、ハンサムなジョージ・クルーニーが仕事と恋愛をクールかつスマートにこなして、ほどほどに笑わせてくれるハート・ウォーミングでおしゃれな映画を期待させ、また作品を実際に見てもそのように思えそうなところがあるけれど、なかなかにクセ者の作品だと思います。

解雇宣告人のドラマなら、NHKの坂口憲二主演「君たちに明日はない」では、解雇を告げる側と告げられる側のぶつかり合いがありましたが、この作品では人間同士の関係がとことん希薄です。
マイレージがたまるほど全米を飛び回り、余分な荷物はなくてきちんと整理されているけれど、「地に足が着いていない男」の物語。　　リアリティがないというより、現代の寓話ですね。

一見完璧に見える男の生活の、メッキがはがれ、実態が露になる・・・というと思い出されるのが、フランク・ペリー監督、バート・ランカスター主演の「　泳ぐひと　」(1969)ですが、もはや現代の主人公は泣き崩れたりしない　
金払って悲惨で落ち込む男の映画を見せられてもねぇ・・・という時代に向けてか、主人公は取り乱したりはしない。
現代アメリカ人の寂しさ、虚しさは声高に描くのも恥ずかしいほど、もはや「あたりまえ」なんでしょう。

たとえば、たまに帰る自宅。まるで生活感がない。隣人の女性と合鍵を渡してよろしくやっていたが、別れを切り出されると、笑って受け入れる。
妹の結婚式でバージンロードでの父親代わりを申し出て断られても、ものわかりよく、笑って受け入れる。
アレックス(ヴェラ・ファーミガ)にたがい割り切った関係のはずといわれても、彼女のいうことが正論、言い争う、わめきちらすなんてみっともないことはできない。
なんて「ものわかりがいい」のだろう。　動揺しているのを悟られたくないし、自分でも認めたくない。
それを認めたら、あまりに惨めだからでしょう。
この男傷つくのが怖くて人と深い関係を避けている。　スピーチでバックパックに入らない持ち物は背負わないと、うそぶいて自分にも暗示をかけていたけど、実に虚しい。

監督はジェイソン・ライトマン。　(スタッフにＪＲとの愛称で呼ばれるのは、イニシャルと、父にアイバン・ライトマンを持つジュニアだから)
前作『ジュノ』でも、母親の要素を３人の登場人物に分けて描いてみせましたが、社会が、会社が、家族が、そして個人にいたるまでバラバラに分解されて、おいしいところだけを得ようとして負担を受け入れようとしない、現代アメリカの希薄な生き方を描いていました。

解雇宣告を外部に発注する企業。　ネット上での解雇宣告に切り替えようとする受注企業
バーチャルな「記念写真」づくりで自分たちの思い出づくりにしようとする妹と恋人。
ナタリー(アナ・ケンドリック)にいたっては、失恋したり仕事がいやになったときの、その取り乱し方、男への甘えっぷりはまるきりガキです。　
しかしそのガキの考えた机上のアイデアが採用されようかという、この会社の薄っぺらさ。　それは見ていてショックなほどです。　　

それらは風刺というにはあまりにさりげなく、軽いですが、ラスト、主人公はこれからどうするのでしょう。
ジョージ・クルーニーってトラブルを解決する仕事につきながら自らはトラブルを抱える男の役が多い。
さびしい笑顔が似合うスターです。
社会派とはいいませんが、世相派監督とでも呼べそうな、今後も楽しみな監督です。　

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

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（結末に関する重要なネタバレあります）

ジョージ・クルーニ演じるライアン・ビンガム職業解雇宣告人は、そりゃあ身軽です。
バックパック一個に入らないような荷物を持つものではないというのが、信条。
それを講演までしていらっしゃいます。
片手に３歳児を抱えて、多すぎる荷物をどう背負ったらいいのか、ポケットまでパンパンで、
その上、荷物満載のリアカーまで引いているようなわたしからすると、まさに雲の上の人です。

アメリカ本国では、ゴールデングローブ賞以下、複数の賞で脚本賞を取っているので、
このストーリーによっぽどアメリカ人は感心したんだなと思いますが、わたしには一向に響きませんでした。

ジョージ・クルーニ演じるライアンは、身軽な実生活そのままに、軽くランデブーも楽しみます。
ライアンの女性版とも言うべきアレックス（ヴェラ・ファーミガ、瞳が美しすぎる！！）と、
お互い約束もせず、干渉しないということで付き合います。
ライアンは、やがて身軽を信条としていたために、家族との関係が希薄でそれを埋められないことに気づきます。
（妹の結婚式での彼へ繰り出される数々の仕打ち・・・因果応報ということでしょうか）
反省したライアンは、そんな結婚式についてきてくれたアレックスとより深く結びつきたいと、
彼女の自宅を訪ねます・・・すると・・・。

アレックスは、私と同じように抱えきれない荷物を山ほど持っていたわけです。
ライアンと会うときは、隠していただけなんです。
そりゃあそうです。そこで、自分は人と人とのつながりを恐れていただけではないのか・・・と気づいてしまうのでした。
なんともせつないです。彼の目標の１０００万マイルの実現も、むなしさを助長させるだけです。
ライアンはおいてけぼりのまま映画は終わります。
だから、人と人とのつながりは大事だよ〜、家族を大切にしようね〜という映画です。
でも、心にぐっときませんでした。

なぜか・・・そもそもライアンがすごくリアリティないんですよね。
ビジネスマンとしても、人間としても。あんな軽く相対する解雇宣告人がやりてのはずないし（刺されるに決まっている）、
人と人とのつながりなんてめんどくせーぜ、身軽がいちばんだぜっとなるのは、若気の至りのことではないかと思うからです。
たまにはいいと思います。身軽も。全部捨てて、裸一貫になりたい時もあります。
でも、そればっかりでは生きていけないとやっぱり思います。
抱えきれないほどの荷物を持ちながらも、それがまた増えていくのが、人が生きていくっていうことでは・・・とわたしは思っています。

彼のこれから向き合うに違いないあわれな孤独、取り戻すことができるかもしれないつながりに、
アメリカ人は共感されたんでしょうか。（わたしには、これっぽちもわかりませんが）
ジョージ・クルーニは、かっこよかったです。だから、ラストは哀れを誘いました。

なんというか、これは何も結論的なものがないような気がします。
自由で気ままなライアンですが、結局は人生って、彼がずっとバックパックに詰め込んでこなかったものが大事だったということなんだろうか。
マイレージを貯めることが、ためてみれば大したことではなくて、結局は分かち合う人がいなければむなしいということなんだろうか？
そうすると、なんだか当たり前すぎてつまんない気がしてくる・・・

ジョージ・クルーニーの映画とはやはり相性が悪い。

なんだか、ピンとこなかったけど、いい映画だったような気もする・・・

う〜ん、やはりレビューが難しい。