鉄男

　ストーリーが有るのか無いのか、よくわからない作品です。でも、魅力と言うかオーラが凄い作品です。最初から画面に引き込まれ、目が離せません。

　映像も白黒で、そこがまたいい。おもしろい撮り方やカットも目白押しです。

　この作品を見ると塚本監督の力量の凄さが分ります。白黒がいいのですが、そのため見づらくなっているのがマイナスです。☆３つの評価ですが、４つはあると私は思います。不条理な世界が描かれていて、現実から逃避したいときに見るのが良いのではないでしょうか。ただし、万人にうけるとは限りません。

内に抱えた恐怖が生起するように、鉄が体を侵蝕し、もがき暴れます。アイアンマンじゃないなメタルマンとなった男に産業廃棄物問題や機械化、システム化といった現代的な問題を感じたりするが1989年と思ったより前の作品なんだ。ま、そんなことは置いといて気持ちよいほどストレートにぐんぐん進むので、ダイレクトに響いてぞくぞくする。

塚本監督の映画は体がしっかりある感じがいい。男性的なのかな。ところどころにみられるイメージカットが刺激的。

　どうも、お題を提案した者が最後になってしまって申し訳ありません。
　さて、本作ですが、紛れもなく塚本晋也作品でした。えび天（「えびぞる映画天国」だったかな？）でデビューしたときの特徴あるコマ撮りによる高速移動とかモノクロの諧調をうまく使った映像とか。
　ジャンルとしてはＳＦなんだけど、不条理劇としても観られると思います。最初は主人公の“男”（田口トモロヲ）が巻き込まれる物語と思っていたのですが、観ていくうちに、“やつ”（塚本晋也）が人間と金属の融合に執着するようになった原因が“男”にもあることが分かってきます。
　繰り返し現れる荒いブラウン管テレビの映像は通常の映像が、まぁ現実とすれば、“やつ”の妄執の表象なのかなと思うのです。これは駅で“眼鏡の女”（叶岡伸）に“男”が襲われる場面からラストの“男”と“やつ”との対決まで繰り返し現れ、“やつ”が“男”の車に挽かれ、林の中に遺棄される場面が特に何回も出てくることからも、“やつ”の記憶や現在、見ている風景のようにも思えます。
　冒頭の太腿をナイフで切り裂いて、そこに長いボルトを埋め込む場面は、いわゆるツカミというやつなんでしょうけど、人体と金属が融合していく描写は、魅力的ながら、どこか稚拙とさえ言えるテクニック（これもコマ撮りです。）で、そこにも塚本監督らしさが出ています。えび天に提出された作品は、どこかコミカルでしたが、本作の場合、コメディ一歩手前で踏みとどまっている感じもあります。特にペニスがドリルになってギュイーンと卓袱台に穴を開けるところなんか、そのままコメディですよね。
　で、コメディに落ちるところを遮っているのが全編に頻出する“叫び”なのではないかと思います。“男”が自分の頬から出ている金属片を触って血が噴き出したので大きめの絆創膏を貼って、ある日、それが盛り上がっていたのでめくると、頬がすっかり金属の塊で覆われていたために上げる叫び。もちろん、血が噴き出すという不快で印象的な描写など、観ている者を追い詰めるような演出もありますけど。他にも“男”の身体が変容したのを見た“女”の恐怖の叫び。先に書いた“やつ”が太腿にボルトを埋め込むときの苦痛の叫び。至るところに叫びがあり、それに比べて台詞の音を意図的に小さくしているように思えます。
　そして、本作の公開が平成元年なのは象徴的です。出てくる風景が見事に昭和なのです。薄汚れたトイレ、“男”の住んでいるアパートの流しや部屋の佇まい、町工場と思われる火花を散らす加工風景。そうした風景の中で人体と金属との融合というＳＦ的事象が起こってしまう。これは日本におけるサイバー・パンク映画と言っていいのではないかと思います。ただ、この怪作は田口トモロヲという怪優の存在なくして成立しなかったということも言えるでしょう。まぁ、怪しい監督が怪しい俳優と巡り合ったがゆえの化学反応なのでしょう。

（ｙｋｋ１９７６さんの映画会　第１２１回）

　( ネタばれあり　)　　
長年の食わず嫌いから塚本晋也監督作品を観るのは実質初めて。　

ホラーが苦手、パンクが苦手、前衛芸術が苦手、PFFとか自主映画出身の監督作品が苦手、マンガでも映画でもシュールな作品はわけがわからなくて苦手・・・などと理由と言うか口実がいろいろあって食わず嫌いでした。
塚本晋也自身は朝ドラ他でまず俳優としてなじみがあり、特に『　沈黙　サイレンス　』はすばらしかったですし、書籍や雑誌等でその発言に知性を感じてはいました。

今回も初見では、気持ち悪いし、意味がわからなくて「　なんだ、これは　」と思ってしまったのが正直なところです。　　
調べたり、また観返したりして、ようやく自分なりに作品がつかめた気にはなりました。

とっかかりは、塚本晋也の原点が「　ウルトラQ 」ファンであること。
円谷プロでも「　ウルトラマン　」「　ウルトラセブン　」ではなくて「　ウルトラQ 」から「　怪奇大作戦　」に連なる手作り感がみごとな作品群のイメージ。

白黒の映像から抱いたのは、自分が少年から青年期を過ごした昭和30年代から昭和40年代のサブカルチャーのイメージ。
たとえば貸本から「　ガロ　」に連なる劇画、アングラ演劇、子どもながらに看板やグラビアで見かけていた淫靡なオトナの映画などの、ちょっとレトロな、いかがわしさ。

そしてこの作品の公開の1989年は、昭和天皇が亡くなり、昭和から平成へ元号が変わった年であり、手塚治虫、美空ひばり、松下幸之助が亡くなった年。　
世界的には天安門事件があり、ベルリンの壁が崩壊した年。
近代が終わり、ポスト近代の時代に入った年との見方もあります。

では近代とはどんな時代だったのか
近代化とは自由で豊かな人間社会に合理主義によって変化しようという時代精神であり、文明や都会は、野蛮や田舎を旧態依然としたものとみなし、時に暴力的にでも新たな変化に従わせる。

鉄は近代化インフラの根幹で、たとえば日本では日清戦争勝利で得た賠償金を元資に八幡製鉄所が作られたことが転機となり、軍国を担う武器を製造し、戦後は、新幹線、造船、自動車、ビルや橋の建造などが高度経済成長をもたらし、鉄鋼生産はアメリカを抜いて世界一位にまでなった。

だが産業を支えた鉄に代わって、アルミなどの軽金属やプラスチック、セラミックなどの素材が生活用品に使われ、実用性・機能性からデザインやファッション性を付加したものに変わっていった。

1980年代には「　モノを作って売る　」から「　カネがカネを生む　」へと経済の比重が移行。
1989年はバブル景気真っただ中で、竹藪に多額の札駄が入ったカバンが置かれているのが続けて見つかったのが象徴的な事件。

大量消費社会と高度情報化社会は、コピーがあふれて斬新なオリジナルだったものを猛烈なスピードで陳腐化していくことでもある。
国家全体なり社会全体なりを「　統合した未来のビジョン　」がある時代は終わり、鉄が体現していた近代はすっかり過去のものとなった。

本作の「　なんだ、これは　」という驚きは言語にしてしまうと、ここまで僕がだらだらと書いているように、陳腐でつまらなくなってしまう。
だから、言語表現が少なくて造型と肉体による視覚表現によって綴られる本作は、まさしく映画と言える作品となっています・・・・・なんて、ね。


　　　( ykk1976さんの映画会　第121回のレビュー。　)

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ワケが分からない、というのが正直な感想だと思いますが、以下を読んでちょっとでもナルホドと思っていただければと思います。とても意味のしっかりした映画であります。

塚本演じる奴は、金属を使ったネットワークを介して情報を交換し、金属物質と生物を融合、変形させたり、遠隔での通信を可能にする研究をしていた（金属が接触していれば何でもよい）。そして開発に成功し自らを「金属化（鉄化）」することに成功する。後、研究中に轢き逃げされたトモロウに接触を試みる。それは復讐であり、鉄化の人体実験であり、奴にとっての娯楽でもある。

まず奴は電気ヒゲソリを介してトモロウに鉄化する種（マイクロ、ナノマシン？）を植えつける。徐々に鉄化していくトモロウ。駅で鉄化した女に襲われるシーンがあるが、あれは落ちていた鉄クズを使って奴が遠隔操作して（まるでカメラを使うかのように映像を見ていた）それに触った女を鉄化しトモロウを襲った。

奴が水道管を使ってアパートに入り込むシーン。あれは金属である水道管を使って、自らの体を部屋の中にトランスポートしている。その証拠に水道管に接触していた女の手からその女の中へと入り込むことができている（ターミネーターの液体金属のヒント？）またテレビに奴の記憶映像が映るのはビデオを映すように自らの記憶データをテレビに送り込んで映している（車のシーン、医者のシーン、セックスシーン）。奴は金属同士がなんらかの形で接触していれば情報を送り込んで操作することができるので、トモロウに奴のビジョンを見せるのも同じようにトモロウの脳にデータを送ってそれを見せた。また鉄クズ工場での戦いのシーンがあるが、ここで奴は手の動きだけで金属を破裂させたりしている。どうやら奴は無線でも金属を操作することができるらしい。奴が轢き逃げされた後、彼は自力で医者へ行ったらしい。医者は脳みそにまで金属が刺さってんのに良く生きてんなぁと言うシーンがあるが、それは事故のせいではなく鉄化の進行のせい。

インターネットもロクに普及していない時代に、こんなアイデアを考えだすとは恐るべし塚本監督。

最後には奴とトモロウが一体化して巨大なペニスの鉄の塊になるが、どうやら完全に鉄化すると心地よいモノらしい（実はこの映画のテーマは愛？）そして世界中を鉄化し一体化する野望に燃える。エ○ァンゲリオンの人類補○計画はこれがヒントだったり？

自分はこう解釈しましたがいかがでしょう？クリアになってきませんか？あらゆる映画の元ネタになっている映画だと思います。