暴力脱獄

刑務所ものは面白い。
脱獄ものは面白い。
「ショーシャンク〜」しかり。
「アルカトラズ〜」しかり。
「プリズン・ブレイク」（シーズン１）しかり。
なんでなんだろう。
明確な理由はわからない。
けど面白い。
この「暴力脱獄」も例に漏れず。
しかし、この邦題ってなんだろう？
なんでこのタイトル？

街のパーキングメーターを壊して収監されたルーク。
このルークをポール・ニューマンが文字通りクールに演じている。
カッコイイですねぇ。
それにしてもこの罪状はなに？
意味わからん（笑）
ルークには根性と反抗心しかないように見える。
他の荷物はいらないぜ・・・って感じ。
きっとルークの心は学生服を着ている。
意味もなく先生や学校に反抗する中学生や高校生のようだ。
パーキングメーター破壊・・・・夜の校舎窓ガラス壊して周った。
脱獄・・・行儀良く真面目なんてできやしなかった。
盗んだ車で走り出す。
出来ないって言わない。
ハイって言っても、それは反語である。
ハイはノー。
そういう生徒っていましたよね。
で自分で「クール」とか言っちゃう。
精一杯クール気取って。
そういう生徒に憧れるのは、普通の出来事。
自分の出来ないことをしてる人。
その人に自分の願望を重ね合わせる。
勝つのではなく。
負けない姿勢を見せる。
利口じゃないけど。
それって男が憧れるひとつの形。
そういうのは残る。
ずっと心に残る。
利口な生き方のほうが楽なのはわかる。
でも、やりたくないんだからしゃーねーなー。
第二ボタンまで外して生きていくしかねーなー。

脇役も個性的で良かったです。
特に看守長が存在感アリアリ。
そして、所長の声はなんとかならなかったのか・・・

ナチス台頭の時代のドイツで、独創的な思索を詩的な文章で表現し、迫害を逃れる旅の途中で自死したユダヤ人思想家ウォルター・ベンヤミンに「破壊的性格」という短文がある。
好んで破滅に向かうような自虐的な生活を送る人との意味とは、まったく違うこの「破壊的性格」の肉体化を、私はルーク（ポール・ニューマン）の姿に見て、言い表せないほど感激した。

「さわやかな空気と自由な空間への渇望は、いかなる憎悪より強い」のが破壊的性格。
「いかなるヴィジョンもいだかない」「欲望もあまりない」「わかわかしく、はれやかである」「理解されるということには少しも興味がない」のが破壊的性格。
そして彼にあるのは「<場所をあけろ!>というスローガンだけであり、その行動も<とりのぞき作業>のほかはない」
「他のひとびとが壁にぶつかったり、山塊に出くわしたりするところでも、破壊的性格は道を見つける。しかしまた、いたるところに道が見えるからこそ、逆に、いたるところで道から外れていかねばならなくなる」
この一節に、ニューマンの澄んだ青い瞳とシャイな笑顔を重ねるとほとんど泣かんばかり。泣ける哲学書なんてこれまであっただろうか。
そして、重要なこと。
「創造的な人間が孤独を求めるのに対して、破壊的人間は、いつもひとを周囲に集めずにはいられない。自分のはたらきを見まもってくれる証人たちが必要なのである」
まさに、ルークとドラグライン（ジョージ・ケネディ）ら囚人たちとの関係そのものではないか。
自由の空気を吸いたい、ただそれだけのために、道は見えてもその先に何があるかを考えない無謀な脱獄をくり返したルークは、囚人たちの伝説になり、笑顔が素敵な幻のヒーローになった。

ルークの過去になにがあったのかはわからない。でもなぜか、いつも自分で自分をもてあまし、気がついたら世の中からはずれていってしまう。
明日の果実に期待して今日を忍従しろと言われてもできない。権威をかさにした理不尽な仕打ちには反抗せずにはいられない。仰々しい理念のためでも、誰か他の人間のためではなく、自分のうちからふつふつ湧いてくる、どうしようもない衝動がそうさせる。「破壊的性格」の血が。
「穴」や「アルカトラズ」や「ショーシャンク」は、計画性と持続力とチームワークによる「創造的」な脱獄だったが、これは、一瞬だけ目の前に自由という何もない空間を作り出す、「破壊」の仕事だった。
そのさわやかさ、晴れやかさ、軽やかさ、そしてかすかによぎる透明な哀しみを表現して出色の脱獄映画だと思う。

５０個のゆで卵を完食できるかの賭けがなかったら、星５つの満点にしたものを。あれは見ているだけで胸焼けがした。終わってテーブルに横たわるルークの姿は、十字架のイエスのイメージとか。
そういえば最後の粗末な木造の礼拝堂のシーン、ゲッセマネで父なる神に語りかけるイエスに似ていた。
既存の宗教を激しく批判したイエスも破壊的性格の持ち主だったのかもしれない。

　不思議な清涼感のある映画だ。パーキングメーターの首（メーター部分）を次々にちょん切って刑務所へ、というオープニングに何でこんなことするんだよ？と思うが、要するに世の中何でも我慢ならん、楯突きたいということか、と思っていたら、やはりベトナム反戦運動が盛り上がる1060年代の世相に大歓迎されたとのことで納得。屋外労働が毎日強制される収容所のような刑務所が舞台だから、こりゃまた刑務所映画によくある所内の暴力やヤバい人間関係の映画かなと身構えるが、主人公ルーク（ポール・ニューマン）の真のたくましさや潔さが回りの囚人たちに影響を及ぼして行く様子が静かに淡々と描かれて行く。

　主人公ルークを演じるポール・ニューマンはこの作品では実にハンサムで爽やかな表情、澄んだ目と少年のような微笑、この時既に41歳だが若々しくスターとして光り輝いている。当然アカデミー主演男優賞にノミネートされ、十分に受賞に値する演技と存在感を発揮したと思うが、残念ながらその年は大先輩ボブ・ホープに譲っている。しかしこの作品を含め生涯でアカデミー賞に10回もノミネートされ８回目の「ハスラー２」（1986）で61歳にしてやっと主演男優賞を初受賞（この前年に「アカデミー名誉賞」を受賞していたが、直ぐ翌年に主演男優賞を獲得とはいかにも「クール」である）。そう言えば、ケビン・コスナー主演の「メッセージ・イン・ア・ボトル」（1999）でも主人公の父親役で主演を食ってしまいそうな存在感を放っていましたなぁ。

　刑務所映画らしく、案の定囚人たちのボス的存在（ジョージ・ケネディ）が居るが、腕にものを言わせるものの実は単純でいい奴。その雰囲気をジョージ・ケネディが好演、アカデミー助演男優賞受賞も納得。

　しかし邦題の「暴力脱獄」ってのはひどい。映画の内容を誤解する。原題が「Cool Hand Luke」だからもうちょいスマートなタイトルはなかっただろうか。そのまま「クール・ハンド・ルーク」の方がよほどマシだったような気がする。

　大俳優ポール・ニューマンの代表的作品としてお奨めします。

『カッコーの巣の上で』に似てるよねー。
・・・だけど、ゆで卵しか思い出せない。
　卵、卵、卵、卵、卵、卵、卵、卵、卵、卵・・・

※このユーザーレビューは作品の内容に関する記述が含まれています。

レビューを表示する

　ここのところ、映画を観るペースがずいぶん落ちているのでレビュー書けず。（泣）　またまた何年も前に書いたレビューを掘り起こしてのアップです。



　酔ってパーキング・メーターを壊し、労働刑務所にやってきた男、ルーク。日中の過酷な作業も、夜毎のポーカー・ゲームも「とことんクールにやる」伊達男だ。塀の中は、所長以下、看守たちの絶対的な権力が囚人たちをがんじ絡めにしているが、ルークは常に微笑みながら自分流を崩さない。他の囚人たちは、自分たちとは何かが違う彼を尊敬しはじめ、ヒーロー扱いする。やがて彼は脱獄をはかっては捕まり、そのつど足の鎖が増え、懲罰小屋に送られる。反抗すればするほど、懲罰という名の理不尽な暴力で人間性を否定され、徹底的に痛めつけられるルーク。権威に屈するしか生きるすべのない世界で、最後に彼がとった行動は・・・。

　権力と自由・・・。ビッグハウスもの、殊に脱獄もので描かれるテーマはそれに尽きるだろう。塀の外側にいたって、我々は世のしがらみや諸々のつまらんルールに縛られて生きざるを得ないのだ。自由への希求は誰の心にもあるもの。ムショという場所は一見、特殊に感じられるが、実は社会と人間の関係をシンプルな形で抽出した雛型であり、普遍的なテーマをはらんでいる。

　権力を恐れず超然とした精神性を持つルークは、囚人たちの心を魅了し希望を与える。そして、実に率直に神に向かって思いをぶつけるので、周囲からは「神の冒涜」と愁眉の的となり、信仰心のある（と本人らは思っている）看守たちから「改心」を迫られる。この図式はやはり、聖書のパリサイ人とイエス・キリストを髣髴とさせる。一方で、ゴッドフリー（神＝”ゴッド”の音が含まれる）という看守とルークの２人は、神と人間の関係を暗示する。

　遮光サングラスをかけたゴッドフリーは「まるで目というものがないかのようだ」と原作で描写されている。その見えない目が、主人公の一挙手一投足を監視する。我々には見えない神が、我々の行動のすべてを見ている、といった具合に。ルークの運命を握っているのも、この男である。

　この２重構造が、主人公の複雑な内面性を象徴している。このルークという男は、棄教を公言しつつ最後まで神に”事の真偽”を問い続けた堕天使なのである。

　原作のエピソードを過不足なく、と言うか映像のレトリックが際立つよう細部をアレンジして盛りこんでいる演出には唸った。例えば、原作で作業中のルークがゴッドフリーに彼の杖を渡すシーン。映画では作業中に捕まえたヘビを放り投げて、「ほら、あんたの杖だ」とやる。これは「十戒」でお馴染み、旧約聖書の出エジプト記でモーセが杖をヘビに変えてみせる奇跡のもじりだ。

　脚本は、本作の原作者ドン・ピアース。１７歳で船員になり、ヨーロッパで犯罪に手をそめムショ入りした後に脱獄。アメリカに戻ってからも金庫破りで逮捕され重労働刑に服役したという経歴の持ち主だ。本作はその時の体験を元に書かれている。

　生真面目に堕ちてゆくこと。これこそがクールというものだ。