ふたりの５つの分かれ路

さて、この映画は離婚する夫婦の出会いにさかのぼるまでに起こった大きな五つ出来事を描いている。予めそんなストーリーらしいので、さあ、厭な奴はどっちだろう？夫か妻か？と見極めえるつもりで見始めた。

邦題は分かれ路、、、すなわち分岐点だが、ここでああすればどうなったか？ここでこうすればよかったのか？と言う選択の問題というより、過去、こういうことがあった。と言う語り口だ。
特に選択肢はなく見る人によって色々だろう。
自分なら絶対にしないと思う５つの場面。ゲイの兄のカップルの前での乱交パーティーの告白。急に出産する妻の呼び出し電話を拒否し、付き添わない。まして結婚式のあと夫が寝てしまったからと言って外をうろつき見知らぬ男の誘惑に乗る。なんてありえない。厭な奴は両方だったのか。

ふたりのそれらの場面に共通しているのは、いつも黙っているということ。人前で酒のつまみに自分を裏切った話をしないで欲しいと妻は言わない。なぜ、出産に駆けつけず逃げてしまったか夫は言わない。なぜ？と妻は聞くがより深く問い詰めたりすることはない。妻のまなざしはとても美しいが、いつも悲しく見える。苦しいことがあっても憂いの満ちた目で口を閉じているだけ。しかし離婚成立後のベッドでは妻は大声をあげ厭だと自分の意思を告げ涙も流した。

妻は恋人同伴の夫と出会い、親しくなった時からこんな時を知っていたのかもしれない。そんな不安定な夫婦と対比させて妻の両親がいる。いつもののしりあったり、うんざりしあいながら、娘曰く、「絶対分かれない二人。」
前半「大切なのは信頼よ。」と言った言葉がラストに近づくにつれ、深く胸に突き刺さる。

夫婦って、恋人とは違う。弱いところ、未熟なところを知り合って補っていくことで他のどんな関係にも替えがたい二人だけの絆が育っていくのだ。
観た所、妻が不誠実な夫に耐えられず、一方的に離婚をしたように見えるが、
私にはこのふたりには、理解できないところを理解しあい、傷ついたら労わりあう、また反対に、気付かないことは気付かせる。といった夫婦としての係わり合いが感じられなかった。
ここぞと言う時は上手に喧嘩もをしなくてはね。
懐かしいメロディに郷愁を誘われ、自分を振り返る既婚者が多いのでは？私がそうだったように。

　たった今、離婚の成立したカップル・ジルとマリオン。
ふたりのターニングポイントとなった、ある時々のエピソードを、時間をさかのぼりながら描いていくミステリアスなラブストーリー。
驚くほど早く感情移入しました。
恋人同士とは少し違う、夫婦間の関係。
肌を重ねあうべきとき、そうしなかった二度のエピソードは、始まりで嫌がる妻を無理やり抱いた夫ジルの行動への伏線となっていきます。
一つ過去に遡ったあるディナーと、三つ目のエピソード新婚初夜。
ほんの些細な二つの出来事・・・
現実でも小さなすれ違いが、修復不可能な溝を夫婦間に芽生えさせるのかもしれませんが、あまりにも悲しかったです。

瑞々しい出会いが、冒頭の離婚へと繋がっていく展開に、やるせない思いがします。
恋の移ろいやすさが虚しくて不思議で脆くて。
このふたりには、なにが欠けていたのでしょう。
思いやりか、一度ずつ犯した過ちか、本当は愛ではなかったのか・・・
夫を演じたステファン・フレイスは変わりませんが、次第に若返っていくヴァレリア・ブルーニ＝テデスキは印象的。
体系も役作りで変えていたのではないでしょうか。

二つ過去に遡った出産の時のエピソードは女としてかなりショックでした。
突然の妊娠異常で帝王切開となり、未熟児を生んだばかりのマリオンに、夫ジルがなにも手助けせず、それどころか逃げてしまうのです。

人の世に絶対はありえないと改めて思ってしまいました。
自由な社会になればなるほど、離婚が増える。
夫婦関係を保っていくって、けっこう大変なことなんじゃないかと思ってしまいます。
だからこそ、熟年になっても仲良くて、相手を尊敬しあっている愛のある夫婦に出会うと、とても嬉しくなるのでしょうね。

この映画を観て思ったこと。
男も女も隙だらけなんだなぁ・・・ってことです。
離婚から出会いまで時間を逆にして鑑賞します。
冷めたところから熱々へ、そして初々しさへと。
離婚の後肌を重ねる２人、浮気したことを意気揚々と語る夫ジル、結婚式当日に他の男の腕の中にいた妻マリオン、彼女がいながらマリオンに惹かれるジル、旅先で１人人恋しそうなマリオン・・・。
ちっとも魅力的でない男と女。むしろ２人とも嫌い。
でもきっととても現実的な映画であると思います。
だから２人とも好きになれないのだと思う。

私は日々たくさん話をしているしマリオンやジルの様にすれ違っていかないわ〜と観てすぐ思ったのですが、あぁそうかこれが幻想かぁー・・・と苦笑いしました。
彼氏(ジル)がマリオンに惹かれていることに気付きながら１人で出かけた彼女が結局は正解だったのかな。

結婚って何なんでしょう。
とても面白い映画でした。

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　現在から過去へ、別れから出会いへ遡っていく。
　同じ手法の映画に、ジェーン・カンピオンの『ルイーズとケリー』があります。こちらは少女の友情が壊れるまでを辿る映画で、観た後とても切ない気分になったのを思い出しました。
　本作は男女の恋愛。同じように最後に切ない気分にさせてくれるのかと思いきや。。。
　なんだ。出会いの時点から始まっていたんですね。分かれ道は。こんな男はダメですよ。旅行先で恋人をほっぽらかして、偶然会った知り合いの女性と恋におちるなんて。こんな男と一緒になったら、将来同じことを自分にされると考えた方がいいですよ。
　どこまで辿っても（女にとって）「幸せ」な時期がやって来ないこの２人の過去。（現在から数えて）５つめの分かれ道が「そもそも出会いの時点でやめとけばよかった」というオチだったんですね。そりゃそうだ。考えてみたら、一番重要な分かれ道だわ。
　観た直後は「なんだよ、これ」と思ったけど、こうやって考えてみるとジワジワきます。やっぱり面白いわ、フランソワ・オゾン。。

同一人物による5つの短編を観ているかのよう
一幕　一幕　丁寧に観れば
一幕ごとに異なる
彼と彼女のそれぞれの心模様が手に取るようにわかる
彼と彼女の歴史の中で
切り取られた5つのシーンを
全て観終った後に
別れるために出会ったのでも
別れが運命だったのでもなく
人と人との間に起こる様々な出来事
そこから得る経験は
全て出会いに集約されている
そんな気がした

日常がドラマであることを気づかせてくれる
フランス映画の魅力もそのままに
オゾン監督の巧さと
5つの時代を演じ分けた主演二人の演技を堪能できる作品