なごり雪

(　ネタばれあり )

　僕は映画のレビューを書くためという仮のきっかけを設けて、ある土地を舞台にした作品を月に一度のペースで観ていくことにしてきているのですが、大分県を題材にした作品として本作を観ました。
しかし本作はご当地作品レビューとしては書きません。
この作品と、大林宣彦監督への反感からです。　

この映画、画的にはとても美しい。
舞台となっている臼杵の町並み、緑あふれる清らかな自然、祭りの情緒ある趣。
登場人物も、三浦友和、ベンガルはいいし、少年少女時代を演じた若い俳優たちは瑞々しいし、津島恵子さんはたたずまいからして映画的で、老いの美しさをたたえている。

それにもかかわらず、むしろそれに反比例するかのように、ぼくにはおぞましいほどに無残に思えるのは、本作は作家が勝手な美意識と思いの中に土地を封じ込める、昆虫標本のような、美しいが生気がない「ふるさと映画」に感じたからです。

セリフが棒読みなのは別にいいのです。　昔の日本映画の名作もそうでしたし、『　風立ちぬ　』の主人公に庵野秀明が起用されたのを見ても、存在感で語るためと、奥に秘められた思いを意識させるためならば。

しかし自分の心象、思いをすべて吐露するかのように説明的なセリフの多さが過剰でうざったい。
かつて「　映画の半分は監督が作り、あとの半分は観客が作る　」と語り、そうした観方を教えてくれたのは、ほかならぬ大林監督だが、この作品には観客が入り込む余白がなく、自己陶酔・自己完結に陥っているとぼくは思います。
特典映像の監督の話を聞いて、何言ってるだろう、この人と、まったく共感できませんでした。

自分に初恋している雪子の思いに応えられなかった祐作の感傷
自分の妻となった雪子は、ずっと祐作が好きだったと思ってきた水田。
だが雪子には男たち二人の勝手な思いとは違うその後のリアルな人生があったはずで、それがまったく映画からは感じられない。
雪子、水田ともに幻を追いかけた、かりそめの人生を送ってきたとしたら、祐作の母が息子の帰郷をただ待ち続けていただけのだとしたら、臼杵の町も、虚ろな　かりそめの土地に思えてしまう。　　
大林監督は自分の美意識やイメージの中に、登場人物も現実の町も封じ込めているように感じました。　

その町は美しく描かれるが、その町に生きている人に生気がない
それは臼杵という町に失礼だろうと思った次第です。

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ほかの方のレビューを読む限り、せりふが棒読みなのは大林監督作品の特徴なのでしょうか。

雪を降らしたいという雪子の気持ちに行き当たる中年の二人の男性。妻を亡くしてしまってホームで泣き崩れる水田の様子が、一番最後に胸に突き刺さり、初めて目が潤んだ。

バイクの転倒事故であそこまで包帯ぐるぐるになってしまっている様子はいまいち現実感が無く、もう少し自然な感じが良かったのでは？と思う。

結局雪子は水田と結婚し、子供が生まれ、それなりに幸せな日々を送っていたのだと思うし、たとえかつて恋していた人の実家を買い取った店で、雪の枕を作り続けていたとしても、それは未練などではないだろうが、妻を失ってしまった水田がそれに気づくことはあるのだろうか？水田にとっての救いをもっと求めたい映画だと思った。

中年にとっては、ジーンと来るものがあります。青春時代は、ついこの前のことだったと思えるのに、28年前の時代背景といわれるとそんなに昔だったのかと思わずにいられません。映画を見ながら、忘れていたことが蘇ってきます。

若い人がこの映画を見ても何をいいたのか、わからないだろう。
雪子が包帯でぐるぐる巻きになっていたのは、必然性があるからだ。雪子は年老いた顔を見せたくないだろうし、主人公と話もしたくなかっただろう。あの包帯はまるで雪子の意思のように感じる。作者は包帯で隠すことで若い時代の雪子のイメージを鮮烈に描写したかったのではないだろうか。

とにかく、この映画のラストは「これからどう生きていけばいいんだ」という質問と、「（それでも）一生懸命生きていくしかない。」
その会話にはっとするには、年をとることで伴侶を失ったり、仕事や生活に無常を感じる年齢にならないと無理だと思う。

臼杵の街並みの美しさをよく生かした映画で、映像的には美しかったです。ストーリー展開や棒読み的なセリフ回しにやや違和感を感じたのでしたが、見終わったあとに付録の監督の解説を見てその意図を知り納得しました。その意図を知って見るとまた違った見方ができたかもしれないです。