舞台恐怖症

何度もこの手の推理物は観ているのにまた騙された。
あっ、ヒッチコック監督がどのシーンで登場したか見逃した！

ヒッチコックって、サスペンス映画の傑作を作った人らしいので、聞いた事のある順に観てきているんだけれど、正直言って面白くない。この映画もまったく面白くないんだが、特典映像で『ヒッチコック自らが、自分の作った映画のワースト2だと言った作品だ』と言っている。そういうことは、最初に言ってくれよ、と怒ります。

なぜワースト2なのかという理由が、まったく私が「面白くない」と思った理由と同じであり、「面白い」と思った人は最後までそこに気がつかなかった人なのである。ここは大事なネタバレになるので書かないが、サスペンスものとしては、ビリー・ワイルダーのような「あああっっ！」と驚くどんでん返しもないし【同じディートリッヒの出ている「情婦(1957)」とか「深夜の告白(1939)」の方が1000倍は面白い】、
ジェーン・ワイマンは可愛すぎてドキドキハラハラがまったくなく、むしろコメディになっている。【当時のスーパースター（ジェーン・ワイマン）に向かって「君は女優に見えない」と言うのはギャグじゃなかったらなんだ？】
そこにディートリッヒが歌を唄ってしまったらほかの役者はみんなシロウト同然、その存在感に誰もがみんな霞んでしまうのである。この映画は破綻している。

こんなレビュー書いても読む人の役に立たないと分かっているが、申し訳ない。ヒッチコックは私には合わないのかもしれない。面白さが分からず残念だ。サスペンス映画ならビリー・ワイルダーの方が数段格が上だ。

ヒッチコック節満喫ながらも
謎が解けたとたんに　ムカッと来るという珍品。


でもいいよ。マレーネ・ディートリヒのこんな顔を
見るだけでも充分価値があるというもの。

「舞台恐怖症」（1950、英国、白黒、110分）。ヒッチコック作品。
ヒッチッコック作品は、「倒叙物」を含めて犯人が比較的最初に分かるもの──「ダイヤルＭを廻せ！」「フレンジー」などと、犯人捜しがテーマではないスパイ・アクション───「汚名」「北北西に進路を取れ」などと、最後まで謎を引っ張るもの───「レベッカ」「サイコ」などの三通りがあると思います。三番目が最も多く、本作もこの「フーダニット（Who has done it?）」領域で、よく出来ています。原作・脚本が良い、人物配置も上手、伏線や小道具の置き方もオープン、演出が冴えています。そこでは、犯人が途中で突然登場したり最初と最後しか登場しなかったりしては反則です。語り手が犯人の場合も。
ロンドンを走る車の中で、王立演劇学校に通う若い女性「イヴ」（ジェーン・ワイマン）と年上の男「ジョナサン」（リチャード・トッド）が会話する。彼は夫のいる女優「シャーロット・インウッド」（マレーネ・ディートリヒ）と浮気していた。昨晩、アパートに来た「シャーロット」の服は血で濡れ、夫を殺したと言った、と「ジョナサン」は語る。彼が彼女の住む住宅に行くと死体があり、強盗殺人に見せるため、部屋を荒らしている姿をメイドに目撃され、お尋ね者になってしまった、と言う。彼を好きな「イヴ」は自分の両親（アラステア・シム／シビル・ソーンダイク）の市外の家に匿う。父（米国の賢人役を名演！）の助言で、彼が女優に嵌められたと確信した「イヴ」は「代理」メイドになって住み込み観察すると、「シャーロット」の乱れた男性関係が判った。「ジョナサン」は市外の家を抜け出てロンドンに戻って捕まりそうになり、また彼女が逃がす。呆れた彼女は若くハンサムな「スミス刑事」（マイケル・ワイルディング）に一連の出来事を打ち明ける。「シャーロット」は逮捕される……。
「イヴ」も結構、気移りが激しいのでしょうか……。まあ、「ジョナサン」より「スミス」の方が良かったかもしれません。それは最後まで分かりません。
せっかく出演しているのですが、ディートリヒの見せ場は舞台のシーンが一瞬の盛り上がりでした。肢体よりも低声の歌のたゆたいが美しいと思います。
「舞台恐怖症」（映画原題：「Stage Fright」）は、台上に上がり観客を目前にすると、脚や体がビビッて震えることです。演劇やバンドのライヴで舞台に上がった人は経験し、快感になってきます。「イブ」もこの経験を経て良い女優になったでしょう。「イヴ」のジェーン・ワイマンは、オスカー主演女優賞を受けた「ジョニー・ベレンダ」（1948）が代表作です。その前に「ダイヤルＭを廻せ！」のレイ・ミランドの主演「失われた週末」（1945）の「アル中作家」の恋人「ヘレン」役があり、近々に再見したいと思います。

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この映画はヒッチコック作品群の中でも異質で、日本では劇場未公開ながら、冒頭の「偽りの回想シーン」が周知の映画。

＜以下、ネタバレ＞
冒頭、舞台ミュージカルの大女優シャーロット（マレーネ・ディートリッヒ）が、血のついたドレスのまま、愛人ジョナサン・クーパー（リチャード・トッド）のもとへ駆けつける。シャーロットを助けるため、彼女の着替えを取りに行ったジョナサンは、その姿をメイドに見られ、警察から追われる羽目になる．．．
これが回想シーンとして、ジョナサンが彼のガールフレンドであるイヴ（ジェーン・ワイマン）に語る訳だが、実はそれはすべて嘘だった．．．

事件の大前提が実は嘘だった．．．これでは映画の本筋から外れているのでは？．．．
（回想シーンが絶妙に素晴らしいタッチで描かれているだけに、余計そう感じる）
全編を見終わって（又は、後半部まで見終わって）、そのことに気づかされる。
同時に、それまでのギクシャク感が理解でき、又、多少の失望感も芽生えてくる。
とにかくヒッチコック映画らしい緊張感の高揚を感じることは出来ない。

この手法に賛否両論はあろうが、個人的には納得できる部分もある。
登場人物も皆、冒頭の「偽りのフラッシュバック」をまったく疑うことなく、映画の中では、それぞれが様々な手段を用い、真実を求めて行動する。
当然、見ている我々観客側は、その模様を信じて疑わない。
この‘仕掛け’はさすがヒッチコック．．．と頷ける所以である。

女優陣がみな素晴らしい演技をみせている。
ジェーン・ワイマン．．．まるで「不二家のペコちゃん」を思わせる風貌で可愛いが、本作でも芯の強い女性を巧みに演じて好感がもてる。
マレーネ・ディートリヒ．．．押しも押されもせぬ大女優。いつもの気だるい雰囲気とセクシーさで存在感を発揮、歌も披露している。
ケイ・ウォルシュ．．．ディートリッヒの付き人で、メガネをかけたネリー役。ワイマンを脅迫するシーンや、ワイマンの父親（アラステア・シム）とのやりとりも面白い。
彼女は４７年「大いなる遺産」（デヴィッド・リーン監督）の脚本を手掛けている才女でもある。
そのほか、シビル・ソーンダイクのとぼけた演技や、ヒッチコック監督の実娘パトリシア・ヒッチコックの出演も話題性がある。

名女優たちの好演によって、ヒッチコック映画の神髄は十分みてとれる。
「偽りの回想シーン」．．．ヒッチコック作品に１本くらいあってもいい。