飢餓海峡

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おびただしい死者をのみこむ海峡を渡った犬飼は、対岸の岩場で自分の貧しい過去を燃やし灰にしてしまう。
身に余る大金を手にした犬飼がたどりついた今生は下北の恐山であり、地獄からぬけだしたとおもったら、もうひとつの地獄に足を踏み入れてしまう。
最初にであった女は銀シャリのムスビを犬飼に与えるが、二つのムスビは母親の双つの乳房であり、前世での犬飼が食べ物にも母の愛情にも飢えていたことに気づかされる。
前世で犯した罪の贖罪のためにどれほど喜捨をしたところで、終わることのない輪廻からのがれる道がない。
八重が布団をかぶり巫女になって犬飼を飲み込むシーンは身の毛がよだつほどに怖ろしい。
極貧故に体を売るしかなかった「母」をゆるさなかった罪は、どれほど弱者を助けたとて償う事は出来ない。
殺されてもなお犬飼を許す八重は彼にとって「失われた母」であり、穢れた贖罪羊をのみこむ母なる海でもある。
仏教説話のようでもあり、原罪意識を織り込んだ叙事詩のようでもあり、尽きせぬ深さを秘めた名作です。

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　強盗殺人犯が逃走してその犯人や協力者や刑事たちの話。

　台風の日に質屋一家を殺害して3人組の強盗犯らしい男たちが、ちょうど沈没事故で騒ぎになっているときに北海道から函館へ逃走して、犯人の1人が逃走して娼婦と出会って彼女に大金を渡して姿を消す。その娼婦さんが犯人のおかげ、と頑張ってお金を稼いで、いつか感謝を一言だけと頑張る。一方、函館の老刑事が殺人事件を捜査していく。

　サスペンスの王道を行く展開で、刑事側が手がかりをもとに点を線にしていく。また大金をもらって、生活を変えてもらった娼婦さんがまたその人に会いたいというところも長いこと描かれます。その人の爪をずっともっていて、それを肌に這わせるところとか凄いシーンでした。

役者さんたち皆さん素晴らしくて、気づいたらどんどんと殺人事件や強盗事件にはまっていってしまう伴淳三郎さんの老刑事っぷりも最高で、後半から新たな殺人事件を捜査する高倉健さんもよかったです。

　容疑者を追い詰めて、彼が話すことによって被害者加害者ともに貧困が根底にあるやるせなさがなんともいえない気持ちにさせてくれる映画でした。

（先の「港のマリー」さんが詳細に書ききっているので、私は一言だけ）

ラストの津軽海峡のシーンが圧倒的だ。映画館のスクリーンで観るまでもなく、心臓を鷲掴みされる。今となっては、ありふれた画といえるのかもしれないが、このドラマに限っては素晴らしいシーンとなった。

長きにわたって人々の人生を狂わせ続けた「人間の業」が、巨大なものにかき消される瞬間。呆然としながら、なんとも言えない虚しさに包まれる思いだ。だが人というものは、どうあがいても所詮この程度の存在だ、とも思い知らされる。

それまでは印象に残らなかった冨田勲のスコアが、最後のシーンでうねるように迫ってくる。これほど見事に人間の業の忌わしさを表現した旋律を、私は知らない。

　てな感じの大層なキャッチフレーズが付いてるんだけどね。ま、でも残ったんじゃないかな。少なくともおいらの記憶の中には。人間ドラマの傑作と言っても良いだろう。

　かなり骨太でダイナミック、スケールがでかい本作。
　まず話事態が面白い。若干後半で中だるみを覚えたんだが、シナリオの質も高い様に感じる。善と悪、幸運と不運、富と貧、生と死等を表裏一体として描いているのも興味深い。犯罪物としての張り詰めた緊張感なんかも良い。

　前半見せられたイメージが後半にも意図的に見せられる構成も興味深い。こんな小技もあるから3時間の尺の長さを感じさせない。

　そして役者が素晴らしい。特に三國、左、伴の三人な。こいつらははっきり言って凄いぞ！“高倉健って別にいらないなぁ”と感じる映画も珍しい。

　個人的な好みなんかも考慮して、全く文句の無い作品という事ではないんだが、この映画から湧き出るパワーは本物だな。

　星★★★★★

　戦後間もない昭和２２年に起きた強盗殺人事件を発端に、その犯人たちを殺害したと見られる男を追い求める刑事と容疑者、容疑者を恩人と慕う女、それら３人の登場人物を巡って物語が進行する。脚本は極めて精密に組み立てられており、主人公たちがそれぞれの置かれた状況をひたむきに生きる姿が心を打つ。とくに左幸子が扮する娼婦の汚れのない心と行動とは、このひたすら暗い作品の中で、ひときわ光り輝いている。
　日本映画の歴史で、この映画の深い内容とそれを表現する俳優たちの演技とは、一つの記念碑となるだろう。