エイジ・オブ・イノセンス

1870年代、NYの上流社会は、しきたりを重んじていた。
アーチャー家の青年ニューランドは、ミンゴット家の娘メイと婚約したが、
メイの従姉妹で幼なじみのエレンに再会し、強く惹かれる。
結婚によりオレンスカ伯爵夫人となったエレンは、長くヨーロッパで暮らしていたが、
伯爵の不貞に耐えきれず、離婚訴訟のためNYに帰ってきたのだ。
メイと結婚したニューランドだったが、エレンへの思いは断ち難く…

離婚訴訟のために上流社会から排斥されながらも、芸術を愛し自分の考えを持つエレン。
自分の考えを述べず、何の疑問も抱かずしきたり通りに振る舞うメイ。
ニューランドは彼女たちをこんな風に見ていたようだ。
アホである。
夫からの解放を望む進歩的なエレンは他者の幸福のために自己を犠牲にし、
「自由の自覚を持たない妻を解放しても無意味だ」と彼が断じたメイには
確固とした考えがあった。

夜会服の襟に白い花を挿した紳士、煌びやかなドレスの淑女、豪華な調度や料理は、
イーディス・ウォートンの原作小説から抜け出てきたようだった。
悲しくも美しい思い出は、時が経つにつれて悲しみが薄れ、美しさだけが残る。
思い出は思い出のままに…ってお話。

メイ（ウィノナ・ライダー）が夢のように美しい。
スズランの花束が良く似合う。（しかし、スズランには毒がある！）
無垢で他意なんか全くなさそうなのに、色んな事を考えているメイを好演していた。
「イノセンスとは、想像力に対して心を閉じ、経験に対して感情を閉じてしまう無垢」
だと原作者が言ったとか。

こうした映画は途中何度も落ちそうになるのですが、デル・ルイスの淡々とした演技に引きずられて最後まで見終えることができました。こうした文芸物は原作を読んでおくともっと鑑賞が深まるのでしょうが、まあ時々ニヤリとさせられる場面があり、そこは大人の味わいということで納得して鑑賞しました。

マーティン・スコセッシ監督の1994年作品です。
若い清純な婚約者(ウィノダ・ライダー)がありながら、成熟して危険な伯爵夫人に、どうしようもなく惹かれる弁護士(ダニエル・デイ-ルイス)の揺れる心のひだが、手に取るように写実的表現に終始胸が高鳴りました。
その恋に、「そうはさせませんわよ」と恋人からやがて妻になる
メイ(ウィノダ・ライダー)の手強さが、もうしたたかというか、
夫の先手を次々と打ってくるのです。

長い婚約期間を解消して伯爵夫人(ミシェル・ファイファー)との恋をスタートさせようとすると、「結婚を速める」との手紙が届きます。
遂に離婚を決意した夫が妻に告げると、伯爵夫人はヨーロッパへ帰ることになった・・・と告げます。
ウィノダ・ライダーは常に夫の先回りをしてミシェル・ファイファーとダニエル・デイ-ルイスの先手を打って阻むのです。
こうなってくると清純で可憐なウィノダライダーがしたたかな悪者。
ミシェル・ファイファーをさらって自分のものにしないダニエル・デイ-ルイスが可哀想に思えてしまいます。
1870のニューヨークの社交界。
古い因習と男尊女卑の時代なのです。
ヨーロッパの伯爵家へ嫁いで、結婚に絶望してニューヨークへ戻った
女性(ミシェル・ファイファー)に家族も社交界も冷たく居場所はないのです。
イノセンス(無垢)な一線を決して超えない愛が狂おしい。
ダニエル・デイ-ルイスはその微妙な心情を実に見事に演じています。
19世紀後半の上流階級の絢爛豪華な生活が、美しい映像で綴られます。
女性の衣装、室内装飾品、クリスタルのグラス、美しい絵皿に盛られるご馳走・・・と眼福の限りを味わいました。

今に生きる私たちにしたら伝統ある貴族社会って未知で魅力的だけど、道からはみ出した者に厳しくて、それでいて本音では語り合えない窮屈な社会ですね。気ままに生きる伯爵夫人に惹かれる真面目人間ニューランド。このアンバランスが似合ってるんでしょうね☆　お互いに配偶者ある身、というのももっとお互いを引き寄せる。静かながらに、激しい恋を描いてます。
なんとなく観出したのに、最後まであっという間でした＾＾　やっぱり恋愛においては男性の方が弱いなぁ・・・とか、これだけ愛し愛されるなんて幸せね〜・・・とか　若い嫁も何も知らない顔して、お見通し、したたかだなぁ・・・とか　まぁ、いろんな事を考えながら楽しめた一本でした＾＾

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　巨匠マーティン・スコセッシと言えば、まずギャング映画「グッド・フェローズ」(1990)、「カジノ」(1995)、「ギャング・オブ・ニューヨーク」(2002)、次に「タクシー・ドライバー」(1976)、「レイジング・ブル」(1980) などの名作を思い起こすが、共通しているのは大なり小なり暴力が付き物。それがどうしたことだろう、こんな典雅でロマンチックな上流階級の恋愛物を監督するとは。。。　「こんな作品だってちゃんと出来るんだぞ」とその才能を披露したような作品である。ピューリッツァ賞作家イーディス・ウォートンの原作の映画化だが、ニューヨークの１９世紀末の上流階級を舞台にした、いわばアメリカの王朝物だ。

　お互いに心から惹かれ合うニューランド・アーチャー（ダニエル・デイ＝ルイス）とエレン・オレンスカ（ミッシェル・ファイファー）は、幼い頃に別れて再会したタイミングが悪かったばかりにお互いにニューヨークの上流社会のしがらみに妨げられ、その恋を貫くことができない。社交界という閉鎖的な社会であえぐ二人の悩ましい気持ちがどのシーンにもあふれている。道徳を守ろうとするからか、二人の恋はいよいよ燃え上がる。

　海辺で優雅に航行する大型帆船を見つめるエレンの後姿を見つめるニューランド（美しい映像です）、「ここで振り向いてくれたら。。。」とニューランドな念ずるがエレンは振り向こうとしない。声をかけずに引き返すニューランド。

　いよいよ二人で一線を越えてしまおうと誓い合った矢先に、ニューランドの妻メイ（ウィノナ・ライダー）は懐妊。自らニューヨークを立ち去る決意をしたエレンを絶句するニューランドが見送るシーンはまるで絵画のように美しく忘れることができない。他人行儀な愛想のいい微笑でニューランドに別れを告げるエレン、そして周りに立つ人々は二人の気持ちを熟知した上でエレンを抱えるようにして馬車に乗せる。馬車が出る時に決して振り向かないエレンは呆然とした表情で、その横顔を無言で見つめるしかないニューランド。

　年老いて成人した息子と共にパリに住むエレンを尋ねるニューランドは、息子が再三誘うのにエレンのアパートに入ろうとせずにエレンの部屋を外の公園から見上げるばかり。窓が動いて太陽が反射しニューランドはまぶしさに目を覆うが、その時に頭をよぎるのはあの海辺でこちらを振り向くエレンの姿。その窓の動きはメイドが閉めようとしていたのだ。

　あまりにペトペトにロマンチックだったためか大衆受けはせずに興行的にはいま一つだったとのこと。映画の端々に登場する室内の家具、絵画、美術品、たくさんの花束などの懲り様は凄まじい。この映画に登場する人物たちが大変センスのある人々であることをこれらの品々が物語る。それに何回も出て来る食事のシーンにも力を入れている。美しい食器とそれに盛り付ける料理を、真上から撮影したり、カメラアングルを変えて、風雅に、また美味しそうに見せている。現実の世界では誰かが金持ちになれば誰かが貧しくなる。しかし映画で金持ちの生活を堪能することは誰にも迷惑をかけない。これも映画の効用の一つだと思う。

　主役の３人の俳優たちはそれぞれの役にぴったりとはまっており、ミッシェル・ファイファーは気品を感じさせ、ウィノナ・ライダーはこの時２２歳で実にみずみずしく美しい。この手の映画は脇役たちがガッチリと固めて名演技をすることが多いが、この映画はこの３人の主役たちだけで十分に完成されているように思えた。

　長い年月を経て、必ず再評価され絶賛を得る名作であると思う。